恋が憎いキューピッド~Love Wars~

藤中美奈

第1話「恋」

ここは世界一恋多き場所・愛私輝(あいしてる)市。

そんな恋愛まみれの場所には恋のキューピッドが住んでいます。


ガタンゴトン、ガタンゴトン。

朝の通勤ラッシュはつらい……だって

「…あ、近いよ小木曽くん…♡」

「……バ、馬鹿だな。ワザとに決まってんだろ猪原(赤面)」

ドア前で炸裂するイチャイチャムード。

座席のほうを見ると

「凛ちゃん、いつもこう言う曲聞いてたんだ~知らなかった♡」

「さくくん、私アイミミしてるの恥ずかしいんだけど…。」

「恥ずかしがってる凛ちゃんも最高にかわいいよ。」

「もう…」

俺は呆れて電車の窓の外を見る。

ビルの窓にかかった大型テレビを見る。

『元ダンサー・天海セレーナと、お笑い芸人・酒井聡志が交際宣言⁉』

もういいや、駅につくまで目つぶってよ…。

『次は~隙田和(すきだわ)~、隙田和~お出口は右側です。』

お、やっとか。

あ、自己紹介忘れてた!

俺の名前は天野 恋。15歳、高校一年生。好きなのは絵を描くこと。大大嫌いなのはリア充だ…(怒り)。俺には、特異体質がある。それは周りでラブハプニングやイチャイチャした光景が当たり前のように起こるってこと。

『ご乗車ありがとうございました~』

ドアが開き、俺は真っ先に出ると

「いかないでくれ!琳子‼」

「何よ、もうほっといてアキラ君!」

「ほっとけるわけないだろ!!!!!!!」

むちゅ~。

「「「「「「「「「「キャー――――――――――」」」」」」」」」」

うん、ちよっと死んでもらおうか。

………は?なんで駅で朝っぱらからキッスしてるんだ。


ここは私立愛私輝学院高等部、一年A組。

「リア充爆滅、リア充爆滅‼」

ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……

「おっはよー、恋恋!」

俺が一人、自分の席でリア充爆滅を願っていると、後ろから挨拶されて振り返る。

「……美波(みなみ)。」

俺は呼ばれた相手を見ると、露骨に嫌な顔をする。

「なんだよその顔、恋恋ひど~い♡俺泣いちゃうよ?」

嘘っぽい笑顔を振りまいているのは俺の初等部からの友達(?)みたいな奴。

美波 生(みなみ せい)、同い年の高校一年生。いわゆる、イケメンと言われる部類の人間である。……一回死んだほうがいいと思う。

「恋恋、今日恋恋の家遊びに行ってもいい?」

「絶対くんな、てか俺今日部活だし。」

「柔道部だよねぇ?よくやるよなぁ、初めて何年目だっけ?初等部からやってたよね?」

「中等部からだよ、誰と間違えてやがる……ってそれ、愛のことか!」

俺が「愛」と言う名前を出すと美波が顔を染めて「ば、違…」とごにょごにょ言っている。

「お兄ちゃんおはよう。今日お弁当忘れてたよ?」

ドア前にひょっこり現れたのは俺の妹・愛(あい)だ。

天野 愛。中学三年生。身長が低めだが、だからと言って侮ってはいけない。愛は五歳から空手をやっていて、喧嘩売ったら柔道五年歴の俺でも死ぬと思う。

……そして

「愛ちゃん、おはよう‼きょ、今日もいい天気だね!!」

美波が満面の笑みで言う。

「あ、美波先輩もおはようございます。」

青みがかったボブ髪を揺らすと、愛は美波にふわっと笑う。

「……好き」

「え、はい?」

「美波、心の声もれてんぞ。」

「今いいところだから空気読んで恋恋!」

真っ赤な顔でつっこむ美波は本当にキャバオーバーみたいだ。

もうお気づきだろうが美波は愛のことが好きなのだ。

しかも初等部くらいからだから、えーっと…十年か……十年⁉

あいつそんなに片思いしてんのか⁉すげーな恋の力!

俺も片思い歴十年の男の恋ぐらい応援してやってもいいか。

まあ、相手が愛じゃあなあ…十年かかってるのも無理ないかもしれん。

でも美波も……一応秘密はあるし、おあいこかな。

「愛ちゃん、俺にもお弁当作って欲しいなぁ…なんて」

結構本気の顔してるぞ、美波。

「別にいいですよ。明日作ってきますね。」

愛、全く気付いてないな。鈍感なのは仕方ないけど。

まあそれ以外の恋愛は絶対邪魔するけどな(怒)。


そう、これは俺…いや、俺たちの恋愛だらけの物語だ。





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