幼馴染が高校卒業後の進路に迷っていたので、俺の所に永久就職しないかと言ったら翌日から嫁ムーブが始まった件

夏穂志

永久就職

第1話 終身雇用と永久就職は異義

「あ〜あ、高校卒業したらどうしようかなぁ」


 進路希望用紙と睨めっこしながら隣でそう呟きながら髪を指でクルクルしているのは俺の幼馴染、東堂とうどう透華とうか


 ちょっとした授業間の休み時間。俺は透華の悩みの相談を受けていた。


「大学とかは行かないの?」

「う〜ん、まーくんが行くのなら私も行くけど、まーくんは行かないんでしょ?」


 俺が大学進学をするなら透華もする……か。


「うん……高校卒業したら会社をすぐに継げって言われててさ」

「そうだよねぇ。どうしよう……。まーくんはどうしたら良いと思う?」


 どうしたら良い……か。そうだ、俺の会社に来て貰えば良いんじゃね?

 透華は賢いし、俺のこともよく理解してる。秘書として仕えてくれるなら最高じゃないだろうか。

 なんて誘おうかな。俺の所に終身雇用しないか……。うーん、もうちょっと良い言い方ないか? 


 ……あ、確か永久就職って言葉あったよな。終身雇用よりも響きもいいし、うん。これで行こう。


「透華……もし、良かったらなんだけど……進路に迷ってるんだったら俺の所で永久就職しないか? 透華だったら……いいや透華だから(秘書として)そばにいて欲しいんだ」

「えっ?! まーくん……それ本気? 私だったら(妻として)まーくんを支えられるって事?」


 俺の言葉を受けて透華が顔を赤らめる。

 嬉しかったのか? まぁ実際、大学に行かずして内定を貰ったようなものだしな。


「うん。(秘書として)支えてくれるって思ってるよ」

「ごめん……まーくん。今日は熱っぽいから私は帰ったって先生に言っといてくれる?」

「だ、大丈夫? 保健室、一緒に行こうか?」

「だ、だだ、大丈夫だから!!!」


 俺は急ぎ足で教室を出ていく透華をただ眺めるしかなかった。




 ◇◇◇


「永久就職ってそういう事だよね? 間違い無いよね」


 透華は遂にまーくんこと中山なかやま正樹まさきと関係を進められた、と心が躍っていた。

 まさか恋人関係という段階をすっ飛ばして嫁に来て欲しいなんて言われるとは思っていなかった透華だったがそんな事はもうどうでも良くなっていた。


「願いが叶うなんて思ってなかったよ。明日からまーくんの嫁になるという自覚を持って行動しなきゃ。……まーくんはいつから私のことそういう目で見てくれていたんだろう。えへへ……どうしよう、今日眠れないかも」



 ◇◇◇

 中山家、正樹の自室にて——


「永久就職とは女性が結婚して主婦になるという意味でかつて日本で多く用いられていた?! これは女性の嫁いでいく先を会社と見立てて、生涯をその嫁ぎ先で主婦という形で勤務するということからこのような呼ばれ方がされていた?!」


 ってことはつまり俺は遠回しにプロポーズをしたってこと?!



自宅に帰ってから俺は永久就職の一般的な使われ方を初めて知った。

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