珈琲

長万部 三郎太

汗だくで

無知は恥である。



忘れもしない1999年。

わたしは「東京の下見に」と、先行して上京していた友人を訪ね、10日間ほど大都会へ旅行をしたことがある。19歳の世間知らずだった頃の話だ。



夏休みを利用しての東京観光だったが、近年稀にみる猛暑が関東を支配していた。


東中野駅から徒歩数分。

友人が暮らす〇〇荘は昭和感というか、戦後感すらも漂う良きアパートだ。

階段はむき出しの鉄骨で、ドアはなく簡易な鍵でロックされる引き戸であった。


風呂無しの四畳半という、駆け出し冒険者にとって家賃的にも最適な空間だったが、なにせエアコンなどという文明もなく大変暑苦しい状態。それでも夜は窓を全開で雑魚寝をしていたので、今思うと若さってすげえなと思う。



ある朝、わたしは「聖地・秋葉原」に行ってみたいと打診をした。

当時はまだバスケのコートやスケボーのエリアがあった頃だ。


灼熱の日差しが照り付けるなか、汗だくでアキバについたわたしたちは、涼を求めて駅近くの珈琲専門店へと駆け込んだ。



とりあえず冷たいものを!

そう思いメニューをめくったものの、常日頃からこのような店を利用しないわたしは、どれがどんな飲み物なのかまったく分からなかった。


そんなわたしをよそに、友人はアイスコーヒーを頼んだ。


同じものを頼むか悩んだが、そこは田舎者のサガ。

店員に「お上りさん」だと思われたくなかったため、妙な玄人っぷりを演出すべく、メニューに載っていたあるものを差し注文をした。



「この、エスプレッソで」



朦朧とする意識で、小さいカップに注がれた激熱なとても苦い珈琲を飲んだ。





(実話シリーズ『珈琲』 おわり)

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珈琲 長万部 三郎太 @Myslee_Noface

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