第19話 マネージャーはおしまい?

「う─────ん…………」

「どう、でしたか?」


 アイドルのマネージャーを始めて一ヶ月が経過した今日、俺は小竹さんと一枚の紙に未来を掌握されていた。


「どっちだと思う?」

らさないでください。マジで腹痛いんで」

「そっかぁー、それならもっと焦らしちゃおうかしら♪」

「そういうのいいんで、マジで早くしてください!!」


 思わず語気が荒くなった。


 どっち、というのは『合格』か『不合格』かの二択のこと。

 小竹さんが手に持っているのは、アイドルのプロフィールを覚えた俺に課せられたテストの問題用紙である。


 難易度は問題によりけりだったが、合格点である60点はさすがにあるだろう。

 何度もアイドルのスリーサイズやカップ数を問うて来たが、別に集中できなかったなんてことは無かった。マジで。


「はいはい分かった分かった。本当にノリが通じないのね〜」


 悪かったな。こっちは生まれてこの方、ライブ会場以外でノリに乗るのは下手くそなんだよ。

 だから『どうせ友達少ないんでしょ?』って言いたげな呆れた表情はやめてください。


「発表します」


 小竹さんはドゥルルルルル、というドラムロール風な音を口から鳴らし、ダンっ! という効果音を発した。


「不合格です♪」


 ……良かった。

 俺はホッとして胸を撫で下ろす。

 まぁ手応え良かったし? 別に「落ちたかも?」とか思って無かったし? ……って。


「今、なんと?」

「100点満点中の55点。──不合格です♪」


 ……終わった。

 身体から力が抜けた俺は、膝をついて絶望した。


「そんな、夢のホワイト企業生活が……」

「ということで。ごめんなんだけど、キミには約束通り──」

「楽して数千万円稼げる理想郷だったのに……。俺の週休三日とフレックスタイムが……」

「やっぱりアンタの志望動機それかよ」


 当たり前だろ! 平凡な人間が社会に休みと自由を求めて何が悪い!

 あーちくしょー、また就活やり直しじゃねぇかよー。もう人生やり直しでもいいよマジで。できれば来世は優しくて可愛い幼なじみがいる世界で頼みます。


「でも、あなたにはどうしても居てもらわないと困るからねぇ……」


 おっ? これは復活のチャンスか?


「ですよね? だったらこの話は無しということで?」

「落ちた人間にそれ言われるとムカつくわね」


 月坂よろしくクズを見るような目で俺を見る小竹さん。それはさておき、と添えて続ける。


「この前の采配が見事だったのは事実だしね。私としては、美弧乃ちゃんのために、これからもどんどん働いて欲しいと思ってるんだけど」

「俺がアイツのために……、ねぇ……」

「嫌なら辞めてもいいぞ♪」

「やります! 全力で月坂美弧乃をサポートします!!」


 まるで命乞いをしているような俺を見て、小竹さんは「やっぱ最高だわ!」と大爆笑した。笑うな。


「分かった! 美弧乃ちゃんがだーい好きなアルバイトくんにもう一度チャンスをあげましょう!!」

「ホントですか!?」

「ただし!!」


 条件がある、と言って、小竹さんは猫なで声で俺におねだりしてきた。


「明日のインターンシップの準備と運営、めんどくさいから手伝って♪」


 この人、フレッシュな就活生が見てないのをいいことに『めんどくさい』って言いやがったよ。


「てことで、はい!」


 ドンッと、大量のボールペンが入ったダンボールが机に置かれた。

 さらに小竹さんは、企業案内などが入った封筒を横に置いてきた。


「これは?」

「早速だけど、三軍ユニットのライブでいつも配ってる『光る! 美弧乃ちゃんカラーライトつきボールペン』が大量に余っちゃったから、就活生に渡す封筒の中に入れておいて♪」


 ……誰か、この人をインターンシップ担当から外してくれ。


「はい、これ!」

 

 そんな悪態を心の中で吐く俺に小竹さんが「一本あげる!」と言ってきたので、それをズボンのポケットに入れた。



【あとがき】


次回投稿は夜19時頃を予定してます!

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