遠来のエゴノヴィ
ネギ
Chapter 1
<イプシロン371298惑星、通称ニューベリルスにおける敵性勢力の調査ミッションを開始。傭兵、ヴィルの担当エリアはE9です。該当エリアへの移動を開始します>
体内AI、Cae(カエ)が秘匿用に圧縮された、文字のみの情報を表示する。
「今回は楽そうなミッションだな、助かるぜ」
この戦闘における接敵予想区域はB2だ。こちら側の区域に敵が兵を配置している可能性は少なそうだ。暇な仕事だが、命の危険がなくカネが手に入るなら文句はない。
<E9エリアへの到着を確認。エリアの走査を開始します。規定ルートに従って移動してください>
手順に関して、特に目新しいものもない。俺は、斥候兵としてエリアの走査を開始する。
手慣れたもので、順調にエリアの走査を進めてゆく。
<エリア探査率50%に到達しました>
もう半分終わったか。今のところ敵影は全くない。あまり気を張らなくても大丈夫そうだと思ったそのときだった。
目の前の光がひずむ。すべての光が1か所に集まり、俺はそこに吸い込まれるように、戦場から姿を消した。
痛い、体中が軋むようだ。意識が朦朧とする。
「カエ、バイタルチェックイエロー」
<レベルイエローでバイタルチェックを開始。異常箇所を発見。修復を開始>
体の痛みが和らいでゆく。意識がはっきりとしてゆく。
「ヘルスナノマシンに異常はないみたいだが……ここはどこだ?」
任務中だった岩だらけの惑星とは全く違う、緑の木々が茂る場所。長距離転移でどこかに連れ去られた?
「カエ、位置情報、グリーン」
<現在位置情報不明。該当星図なし>
「は?どういうことだ?」
現在位置情報不明でジャミングを疑ったが、該当星図なし?つまり、星図の走査は可能だが、位置がわからないということか?
「位置情報、ブラック」
<現在位置情報不明、該当星図なし。植生からの推測、該当惑星なし。また、作戦データベースへのアクセス不可。自軍コード該当1名。周辺に友軍なし。早急な友軍への合流を提唱します>
一体なんなんだ、これは……。こんな事態には遭遇したことがない。レベルブラックでの走査でもなにもわからないとは、マズイ状況だ。とにかく情報を集めなくては。俺は近くに転がっていた、ルフスと呼ばれる偵察用2輪車両にまたがり、移動を開始した。
鬱蒼とした森を、たまにルフスのホバーを稼働させつつ移動する。ホバーを使うとエネルギー消費が大きいが、いかんせん足場が悪いので仕方がない。
移動しながらこの惑星を調査して、いくつかわかったことがある。まずは、この惑星の大気は呼吸可能で、危険な病原菌なども検出されないので、頭部装備を外しても大丈夫そうだということ。そして、わずかだが電波通信が行われていることだ。
つまり、この惑星には電波通信が可能なレベルの文明が存在する。いささか自分の故郷と比べると原始的ではあるが、完全な未開の地ではないことが判明して、少し安心した。
電波通信の内容を解析した結果、公衆放送のようだったが、話している言語はデータベースのどの言語にも該当しなかった。現在カエが言語体系を解析しているので、しばらくすれば簡単な翻訳は可能になるだろう。
だが、一番気になる調査結果は、大気中にわずかに存在する未知の物質についてだ。
この物質は他の物質に影響がなく、吸い込んだりしても大丈夫そうではあったが、詳細を観測しようと原子レベルでの走査を開始したら、その部分が熱エネルギーへと変化して消失した。
調べていた部分が微小だったので大した熱量ではなかったが、大量だった場合、自分丸ごと吹き飛んでいたかもしれない。意味不明である。こんな物質は聞いたことがない。
ここは一体何なのだろう。それを知るために、現地の生命体に接触しようと思った。カエも肯定したのだ、妥当な判断だと信じたい。
ルフスのセンサーに反応があった。
生体反応と、知的生命体の会話と思われる音声を検出している。どうやら何らかの生物と交戦中で、しかも劣勢らしい。少し迷ったが、加勢することにした。その方が友好的に接触できるだろうとの判断だ。
接近して目に飛び込んできたのは、狼のような生物7体と、人型の生物3体。人型の3体が知的生命体で間違いないようだ。
その三人を仮に現地人とするなら、その3人のうち1人、女性らしき人物はけがをしているようだし、3人とも狼7体に囲まれていた。
カエの翻訳機能を使い、胸部スピーカーから音声を出力する。
「今、助ける!」
カエが「助かる」「気を付けろ」「森でバイク!?」などの現地語を翻訳してくる。助けることには問題がないようなので、さっさと狼を始末してしまおう。
ルフスの光学武装を展開して、円を描くように、狼の外側を一周する。それだけで狼は頭部をレーザーに貫かれて、絶命していく。ものの数秒で狼7体は屍に変わった。
俺はルフスから降りると、頭部装備を外して顔を見せてから、驚いている様子の3人に話しかけた。
「けが、大丈夫?」
こちらの翻訳はまだ不十分で片言だが、意味は伝わったようで、3人のうち、けがをしている金髪ロングの女性から、返事が返ってきた。
「命に関わらない[ ]ありがとう。フォレストウルフは[ ]数が多かった。[ ]助かる」
部分的に翻訳が不十分だが、感謝しているのは理解ができた。どうやらこの狼はフォレストウルフというらしい。俺はさらに質問を重ねる。
「私、ここ、どこかわからない。近くの街、案内してほしい」
3人のうち、他2人は男性だ。男性のうち、剣を手にした茶髪で短髪の人物が返事をする。
「あなたは命の恩人。それくらい[ ]近くの街を案内します」
どうやら案内してもらえるらしい。ファーストコミュニケーションは、なんとかなったようだ。
もう一人の男性、黒髪短髪で斧を手にしている人物も話しかけてくる。
「自分からも[ ]ありがとう。助かった」
そして3人はフォレストウルフの腹部から小さい結晶のようなものを抜き取ると、こちらに手渡してきた。
「[ ]あなたが討伐した。[ ]あなたのもの」
これが何なのかもよくわからないが、どうやら自分のものらしい。ひとまず受け取って装備のポケットに放り込んでおく。
「街まで案内、お願いします」
俺はルフスを追従モードにすると、3人に追従して、ゆっくりと歩き始めた。
3人の名前は金髪の女性がアウラ、茶髪の男性がブラー、黒髪の男性がニーグと言うらしい。
どうやら近くの街までは徒歩で2日ほどかかるらしい。森の中の移動なのでルフスで移動できるか心配していたようだが、ルフスがホバーで木の根を避けながら移動しているのを見ると、3人とも目を輝かせてこれは何なのか、さっきの狼への攻撃は何なのか、空は飛べるのか、と質問してきた。
それらに丁寧に、時にはぐらかしながら答えつつ、彼らの文明がどの程度なのか推察する。どうやら2輪自動車、いわゆるバイクは存在するものの、ホバー機能や自律機能はない程度の文明らしい。
それにしても彼らの見た目はあまりに自分に近い。ここは自分の故郷からは遠い地と思われるが、彼らの生物としての起源は、自分と同じなのかもしれない。
そうこうしているうちに日も落ちてきた。どうやら彼らは今いる場所で野営することを決めたようだ。
「ヴィル、近くの川から水を取ってきてほしい」
アウラからお願いされた。野営するということは飲用水だろうか。解析がすすんで流暢になってきた翻訳で、返事を返す。
「アウラ、水は飲める水ならなんでもいいよな?」
そう言ってルフスのタンクから鍋に、飲用水を出して持ってくると、たいそう驚かれた。聞けば水というのは重く、基本的に持ち歩かないようだ。ルフスの出力を考えれば微々たる重さだからな。
鍋で煮るのは干し肉や固形のスープの素、干した穀物などのようだ。完成した穀物のスープがゆのようなものは自分にも用意されていたらしく、そのお礼としてこちらは、手もちにあったカロリーバーを渡した。全員で集まったことだし、食事を始めるか。
「うまい!!!」
4人の重なった声が木霊する。なんだこのスープがゆは。均一でない味の食事は久々だ。まさか、全部天然の食材を使用しているのか?贅沢すぎる!
一方で他の3人のほうも、カロリーバーの味に驚愕しているようだった。渡したのはベーシックな味のものだが、どうやら食べたことのない味だったらしく、不思議な味だ、甘くておいしい、といった言葉が漏れている。
食事後、3人は交代で見張りをしつつ寝るようだった。命の恩人に見張りをさせるわけにはいかないとのことだったので、自分はルフスを就寝時警戒モードにして、さっさと寝させてもらおう。
明日は街に到着する。万全の状態で情報を集めるためにも、しっかり体を休めなくては。
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