紫陽花のように

走る大根

第1話 他愛もない日常

あのじめじめとした雨が滴る6月が私は嫌いだ。朝から土砂降り。憂鬱な気分になりながらも学校に向かう為家を出る。

「行ってきます」

と家族に聞こえるか聞こえない程の声量で言い放った。2年に進級し桜が散ると共に春は終わりを告げる。そして雨季に入る。

梅雨は嫌いだ。ただでさえくせっ毛なのに髪はうねるし、雨の匂いは独特で好きじゃないし、天気がどんよりしていてこっちまで気分が下がる。正直好きになる要素ある?逆に好きな人とか理解出来ないんだけど……などと考えていたら学校に着いた。

我ながら、早くついた方だと思う。

しかしそこにはもう席に座って集中して本を読んでいる女子が座っていた。

私はその子に「おはよ」

とだけ言い放つ。

どれだけ集中していたのか分からないが、思ったよりも声を上げて彼女は驚いていた。

「おはよ!日花!いきなり話しかけるからびっくりしたよ〜」

とまだ驚きを隠せていない彼女は私の友達だ。

名前は紫陽花。雨堤紫陽花(あまづつみしおか)。紫陽花と書いてしおかと読む。初めて名前を聞いた時は、なんて綺麗な名前なのだろうと思ったのを覚えている。紫陽花とは高校1年生から同じクラスで、こんな私と仲良くさせてもらっている優しい子だ。私と同じ歳なのに、テストは勿論1位、スポーツ万能。友達思い。クラスからの評判もいい。そしてモテる。とにかくモテる。さらさらな黒髪ロングで美形。勉強もできれば、ノリも良い。言わば学校のマドンナ的存在。

不意に思ってしまう時がある。何故こんな私なんかと仲良くしているんだろう、と。

そこまで良いとは言えない顔立ちで、成績は中の下ぐらい。スポーツは少し苦手で紫陽花のように誰とでも会話さえ出来ず、コミュニケーション能力も乏しい。紫陽花がするわけが無いと思いながらも、もしかして私の事を引き立て役にして周りから人気を得ようとしているのか。

などと嫌なことを考えてしまう。

自分でも思う、なんて嫌な奴なんだ。

そんな醜い思いを心にしまい隠し、また一日学校生活が始まる。

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