1-12 <Love is The Message(3)>

「アズミ、今回ラストやらないか?」


ユウタが言った。

アズミはびっくりして、


「え? ボク?」


と目を丸くする。


「ああ。

今回はニシキさんが来てくれる。

アズミにとってもオレらにとってもスペシャルな日だ。

やから、トリを飾ってもらうということで。

・・・みんなもOKだよな?」


マキとアリヤも、声を合わせて、


「OKでーす!!」


と声を上げた。


水曜日。

大学近くのカフェでの、いつものイベントミーティング。

イベント『Four Layers』は、来週の土曜日だ。


それでも、ニシキが来るということで、4人の間には微妙な緊張感が漂う。


先日マキがユウタに、


「いつも通りにやればいいよね!」


と言った。

ここでもマキは、あらためてみんなにそのことを繰り返した。


「いつもあたしら、差別も偏見もない、楽しくて最高のパーティーやってるやん!

やから、いつも通りにやればいいんよ!」


とはいえ4人とも、やはり気持ち的にはなかなか、いつも通りというわけにはいかないようだ。


特にアズミと、そしてアリヤには。


アズミは、少々うろたえた様子でユウタに言う。


「・・・ニシキが来るからと言って、あんまりボクを特別扱いしないほうがいいんやないかな?」


ユウタは、マキと顔を見合わせる。

そしてユウタが、こう話す。


「特別扱いやない。

今までアズミがトリをやったことないし、これもいい機会やと思ったんで、提案しただけや。

もちろん、アズミが納得できなければ、やらなくてもいい。

自主性重視や」


アズミは、気持ちが揺れ動いているようだった。


もちろん、ニシキの前でいいプレイはしたい。

しかし、他の3人が自分に気を使ってくれているような状況は、避けたい。


それでも結局、アズミはラスト担当を納得した。




ミーティングの帰りに、アリヤがマキを誘った。


「・・・ちょっと、別んとこで話しない?」


「ん?・・・いいけど・・・」


別のカフェで、アリヤがマキに告白した。


「・・・正直言って、アズミのラヴァーが来る、っていうのは、ビミョーな気分よ。

・・・アズミに告って振られたあたしからするとね・・・」


マキは、アリヤからの思いがけない言葉にびっくりした。


アリヤ、あんなに何でもないような様子をしてたのに、実はまだ引きずってたのか。

「リチェルカーレ」でのあのハイテンションも、その思いを隠すためだったのだろうか。


マキは、アリヤになんて言ってあげればいいのか、あれこれ考えてみたが、かけるべき言葉が思いつかない。

こんな言葉しか出てこない。


「・・・わかる・・・。

けどな、もうこうなったらには、アズミたち二人を応援してあげるのに徹するしかないと思うんやけどな・・・」


アリヤは、アイスコーヒーのグラスを持った片手を持ち上げ、持っていないほうの手をひらひらさせて、苦笑した。


「・・・マキ、わかってる。

その通りよ。

その通りなのはわかってんやけどさー・・・。

ホント言うとさ、まだね、気持ちがね、割り切れてないんよね・・・」


マキは、アリヤがこんなに傷心しているさまを見るのは初めてだ。

いつも陽気なアリヤしか見たことがなかっただけに、ショックだった。


「・・・あー、マキ、気にせんといて。

これ、ただの愚痴やからさー。

言いたいこと全部言ったら、たぶん、スッキリする・・・」


その言葉とは裏腹に、アリヤは話すごとにどんどん落ち込んでいくように見える。


マキはやさしく言った。


「・・・アリヤ。

無理せんほうがええよ。

いややったら今回は出ない、ってのもありと思う。

・・・そりゃ、アリヤがいないのはすごく寂しいけど・・・。

でも、つらい思いしてまで出る必要はないよ」


「・・・うん・・・。

・・・いや、けどな、やっぱり出るべきやと思うんよ。

あたしが忘れるために、ね」


「忘れるために・・・?」


「そ。

あたしのアズミに対する思いを断ち切るために、恋人のニシキって人にちゃんと向かい合って、いつも通りプレイやってさ。

それやってこそ、忘れられるんやないか、って思うんよ」


マキは、そう話すアリヤの痛々しい表情を見ていて、胸が締め付けられる思いがした。

でも、アリヤの決意はよく理解できた。


マキは、アリヤの両肩を抱いた。


「アリヤ、そうするんなら、あたしもそれを尊重するよ。

でも、無理はしないで。

アリヤが一番いいと思う、できる方法を選べばええよ」


アリヤはしゃくり上げながら泣き始めた。


「マキ・・・ごめんな・・・。

好きになった人がゲイやった、って、やっぱりショックよ・・・」


マキはアリヤを抱きしめた。

いまの自分がアリヤにしてあげられることは、それだけだった。


カフェのお客さんが何人か、二人を驚いたように見ていた。

だが、今の二人にそんなことを気にする余裕はない。


そうやって、マキはアリヤを抱きしめながら、いつまでも慰め続けた。




パーティーの日。

その日は朝から、よく晴れた日だった。


夜になると、外は心地よい風が吹いていた。


心斎橋のクラブ、Club Orbit。


ユウタ、アズミ、マキ、アリヤ。

4人はそろった。

いつも通りの、最高に楽しいパーティーをするために。


「ま、意識せず、いつものように、楽しんでいこうな」

とユウタ。


「はーい!」

とマキ。


「オッケー」

と、ちょっと緊張してる様子のアズミ。


「ハイよー!」

と、いつも通りに見えるアリヤ。


CDJは、すでに修理が終わって帰ってきている。

もう、いくつかのイベントで使われていて、問題なく動いているということだった。


ハギさんがブースにやって来て、みんなに話した。


「CDJも治って、帰って来てる。

それと追加で、新たにCDJ-3000、2台買った。

したがって、合計4台ある。

・・・出費痛かったけどな。

メインはこれまで通りCDJ-2000NXS2だが、ご希望でCDJ-3000をメインにするのもOKや。

いつでも言うてくれ。

それと、もし4台使いしたいときもな」


ユウタとマキが、思わず、


「おおー!!」


と声を上げる。


「ハギさん、思い切りましたね」


「ユウタ、思い切ったどころやないぞ。

清水の舞台から飛び降りて、骨折した気分や!」


ユウタとマキが、あはは、と笑う。


一方、アズミは、CDJに自分のUSBメモリを挿して、出音を確認していた。


アリヤは、アズミと離れて、ブースの隅近くのベンチに座り、自分のノートPCを開いてヘッドフォンをかけ、プレイリスト内の曲を聴き直している。

マキが、そんな二人を見ながら、ちょっと切ない気持ちになる。


「・・・そっとしておいてやろう」


ユウタが、そんなマキに小さく声をかけた。

マキは、


「う、うん・・」


とだけ返事する。


オープンの時間だ。


オープニングは、マキが担当した。


スローなエレクトロニカ。

電子音の、癒しの音。


まだ早い時間。

オーディエンスはまだまばらだ。


それでも、その数人のために、マキは心を込めて選曲する。

そして、アリヤのためにも。


アリヤはマキがプレイを始めると、ヘッドフォンを外して、マキの奏でる音に聴き入った。


アリヤにもわかった。

マキ、あたしのために選曲してくれてるんやな・・・。


マキは後ろを振り向く。

アリヤが自分を見つめながら、ゆらゆらと頭と身体を動かして聴き入っている姿が目に入った。

それだけで、アリヤの気持ちはじゅうぶん伝わった。


アリヤは自分に、


ありがとう。


と言ってくれてる・・・。


エントランスから、1人、オーディエンスが入ってきた。

ニシキだ。


黒いTシャツに黒に金色の縁取りの入ったベスト、黒のレザーパンツ。

ユウタもすぐに気がついた。

ユウタは駆け寄って、ニシキに握手して出迎えた。


マキはその様子を見ていた。

あの人か・・・

美しいな・・・。


マキはBPMを少しずつ上げていった。

エレクトロニカからニュージャズ、ディープハウスへと。


ユウタの後にアズミも近寄って、ニシキと話している。

ニシキとアズミは、共にとてもうれしそうだ。


アリヤは、しばらくの間、彼ら三人の様子をじっと見つめていた。

そして、やがて目をそらして、再びマキの音に聴き入った。


ニシキも、アズミと話しながら、マキの奏でる心地よい音に身をゆだねているようだ。


イケメン二人、画になるな・・・。

マキは、心の中でひとりごとを言った。


マキは、徐々にテンションも上げていく。

自分の持ち時間の終わり近く、Glenn Undergroundの「Vital Rhythm (Main)」をチョイスしてプレイした。(注1)


本来なら、ユウタが選びそうな曲やけど、まあええよね・・・。

と思いながら、ユウタを見る。


ユウタが、マキを指さして、無言で親指を立てる。

マキは、舌をペロッと出して、こちらも親指を立てる。


(注1):Glenn Undergroundの「Vital Rhythm (Main)」

Glenn Undergroundの2022年リリースの曲。

シカゴハウスやジャズの影響を受けた、テクノに近いテイストを持つディープハウスの曲を多くリリースしている。


アリヤがマキのそばに来た。

もうすぐ交代だ。


「・・・マキ、すごいよかったよ。

癒された。

ありがとね」


アリヤはマキにそう言った。

マキは笑顔で、首を横に振って応えた。


「アリヤ、リラックスしてやってね」


「だいじょうぶ。

・・・力入れるわ!」


アリヤはそう言って、マキがUSBメモリを抜いた側のCDJのスロットに、自分のUSBメモリを挿しこむ。

そして、マキと抱き合った。


「マキ、今回はいろいろと、すごく感謝してる・・・」


「ううん、あたしはなんにも大したこと、してない。

アリヤが元気になってほしい、ただそれだけ・・・」


「グラッチェ・・・」

アリヤはマキの頬にキスした。


CDJに向き直ると、アリヤは真顔になった。


マキがかけていた最後の曲に、自分の1曲目を少しずつミックスしていく。


最初の曲は、Lucciano 「I Know The Feel Around (Extended Mix)」 だ。


マキの作った流れを引き継ぎながら、自分のテイストにうまく持っていく。


アリヤは決めていた。


ニシキさんを、あたしがロックしてやる。

アズミとともに。


アズミが愛する人ならば、アズミといっしょに、あたしが魅了してやるんだ。

それがあたしの、今夜の役目。

そして、あたしなりの、二人への祝福であり、アズミを吹っ切るためでもある。


アリヤは、プレイに全身全霊を傾けた。

テックハウスから、徐々にプログレッシブハウス、ミニマルテクノ、エレクトロハウス・・・。

縦横無尽にジャンルを飛び越えていく。


ニシキは、他のオーディエンスに混じって、ブース上のアリヤを黙って見つめながら、立って聴いていた。

常連のオーディエンスたちは、気軽にニシキに声をかけ、話してくる。

ニシキも、少し驚きの表情を浮かべながらも、笑顔になって会話していた。


やがて、次第にニシキの表情が緩み、喜びが混じっていくのを、マキは見ていた。


ニシキも腰を振って踊り出した。

始めは控えめに、しかし次第に生き生きと。


ニシキは心底楽しんでいるように見える。


マキの隣にユウタが寄って来る。


「ニシキをノせてるよ・・・」


マキはユウタに顔を向けて応じる。


「うん・・・すごいよ、アリヤ・・・」


「ああ・・・ニシキの心を開いたな・・・」


「うん・・・」


ブースの奥にいたアズミも、フロアに降りてきてニシキのそばに来ると、いっしょに踊り出す。

二人は笑顔で見つめ合いながら、アリヤのプレイに合わせて踊った。


およそ1時間半のプレイ、アリヤはオーディエンスを、そして二人をロックした。


交代のためにユウタが寄って来る。


「アリヤ、盛り上げてくれてありがとな。

すごいよかった」


アリヤはユウタに顔を向けて、


「おかげでね」


その眼には涙が浮かんでいた。


「・・・おつかれさん。

オレの時間はチークタイムになっちまうな」


ユウタはそう言って、USBメモリを挿した。


「・・・ユウタ、グラッチェ。

これで、吹っ切れた」


「おう・・・。

よかった・・・」


ユウタは、アリヤからつなげる曲をロードした。


アリヤの最後の曲に、少しずつミックスしていく。

続けてテックハウスを。


今夜はテックハウスとミニマルハウス、ディープテック多めで行こう。

オレの後がアズミだし、この流れを保ちたい。


その通り、ユウタは選曲していった。

ユウタにしては、いつもとちがう選曲だったが、アリヤからの流れを継いで、ちょっとテンションを高めに保って、オーディエンスにも受けた。


つい先ほどまでニシキと踊っていたアズミが、交代のためユウタのそばに来た。


「・・・ありがとう、ユウタ。

テイストずっと寄せてくれて」


「ま、オレにしてはめずらしい選曲かもやけど、楽しかった」


アズミと手を握り合って、バトンタッチする。

アズミがUSBメモリを挿す。


フロアからは、ニシキの鋭い視線が、真っすぐにアズミを見つめているのが、ユウタにもわかる。


ユウタも、その視線にちょっと緊張した。


アズミは、淡々と準備を進める。

曲をCDJにロードする。


ユウタのディープテックからアズミが持ってきた曲は、Space Motion 「Run Again」。

アップでキャッチーなメロディックハウス。


オーディエンスは一気に盛り上がる。

ニシキも、両手を上げて叫ぶ。


アズミは、はにかんだような笑顔で片手を上げて応える。


メロディックハウス、テックハウス、オーガニックハウス、テクノ・・・。

アズミは、次々に曲を繰り出していった。

緩急、変幻自在だ。


意のままにオーディエンスをドライブしていくプレイ。


他のオーディエンス同様、ニシキも踊りまくっていた。

細い身体を、手足を動かす。

まるで、マイケル・ジャクソンのように、華麗に、激しく。


そんなニシキの様子を見て、ユウタはマキに言った。


「・・・いい感じや・・・」


「うん・・・いい感じ・・・」


ラストの時間が近づいてきた。

30分間、B2Bタイムだ。


アズミの後にマキ、マキの後にアリヤ、アリヤの後にユウタ。

そしてラスト、アズミが締めることに。


最後にアズミが選んだのは、彼にしては意外な曲。


ユウタのかけたBPM120の曲から、さらにBPMを落として、最後の曲が鳴る。


ユウタが、


「あ・・・」


と思わず声を上げた。


そう、アズミの選んだ曲。

MFSB「Love Is The Message (M+M Mix)」。


かつて1980年代、NYのクラブ、ゲイパーティーで何度となくプレイされていただろう、ハウスの名曲。


最初の音が鳴りだしたとたん、ニシキは、感動のあまりか立ちつくす。

微動だにせずに、ただ聴き入っている。


ニシキの頬を、涙が伝っているのが見えた。

彼は、ただ涙を流しながら聴き入っていた。


ユウタは、ニシキの気持ちが、手に取るようにわかる気がした。

そして、これをラストに選んだ、アズミの気持ちも。


オーディエンスからも歓声が飛ぶ。


至福の時間。

オーディエンスも、アズミやユウタたちDJも、その間はみんな、一体になった気がした。


最後の音が鳴り終わった。

ユウタが静寂を破る。


「今夜も、みなさんのおかげで、いいパーティーになりました。

DJ Azumiに、拍手を!」


オーディエンスみんなが、大きな拍手を送った。

もちろん、ニシキも。


ニシキが、ブースの前にやって来て言った。


「みなさん、すばらしかったです!」


ユウタが応えた。


「ありがとうございます!

そう言ってもらえて、うれしいです」


「あなたがたのこのパーティーが、アズミを同じ仲間として、まったく平等に付き合ってくれてること、よくわかりました。


ボクが、いささか偏見であなたがた、いや、ヘテロの人たちを見ていたということにも、気づかされました。

そのことはお詫びいたします、ユウタさん。


アズミの出演については、現状通りということで、了解しました。

彼も心底、そう望んでいるということがよく理解できましたので。

『Pink Love』は現状のペースのまま、それと別のパーティーを並行して開催することで対応することにします。


・・・この機会をくださったユウタさん、あなたには深く感謝申し上げたい」


「・・・い、いえ、こちらこそ・・・。

でも、そう思っていただけたなら、よかったです」


そして、ニシキはアズミに声をかけた。


「アズミ。

きみのプレイ、最高やった。

正直、『Pink Love』のときにも増して、いいと思った」


「・・・いやあ・・・」


と、アズミは照れくさそうに頭に手をやる。


「・・・マキさん、あなたもすばらしかった。

とても癒されました」


マキも照れながら、


「・・・いえ、ありがとうございます・・・」


そしてニシキは、


「・・・そして、アリヤさん」


ブースの奥にいて片付けをしていたアリヤは、ニシキに呼ばれたとたん、ビクッと身を震わせたように、マキには見えた。


「あ、ハイ!」


「・・・あなたのプレイには、ホントに感銘を受けました。

とてもすばらしかった。


・・・もし、あなたがいやでなければの話ですが、今度ボクたちの単発のイベントで、性別を問わないパーティーをやるんです。

よかったら、そちらにDJ出演していただけませんか?

ギャラも、多くはないですがお支払いします。

9月23日、秋分の日の土曜です。

梅田の『ミント』です」


アリヤは、驚きのあまりしばらく声を出せなかった。

それは、ユウタも、マキも、そしてアズミもそうだった。


やがてアリヤは、いつもの陽気な笑顔にもどって、


「・・・ありがとうございます。

その日、だいじょうぶです。

お受けします。

・・・あたしでよければ」


「ぜひ、お願いします!

・・・アズミも、ええやろ?」


アズミも笑顔で、


「もちろん!

アリヤさえよければ、ボクからもぜひお願いしたい」


アリヤは、半分泣きそうな笑顔になって、


「お二人とも、ありがとね、グラッチェ・・・!」


そしてニシキとアズミ、二人を抱きしめた。

三人は抱きしめ合って、喜びを分かち合った。


マキとユウタはその様子を見て、笑顔でお互いに見つめ合った。


「よかったな」


「うん!」





心斎橋駅までの道を、ユウタ、マキ、アリヤの三人で歩いた。

アズミはニシキといっしょに朝食を食べに行くということで、先に出ていった。


マキがアリヤに言った。


「アリヤ、今回はいろいろあったねー」


アリヤは、マキとユウタの二人に、


「ありがとね、マキ、ユウタ。

今回はほんと、いろいろ助けてもらったわ」


ユウタが、


「・・いや、当然のことや。

オレたち、仲間やろ」


「・・・そやね。

おかげで、思ってもいなかった出演依頼ももらったし!」


「アリヤ、どんどん出世していくな。

オレらん中で、いちばん出世早いかも」


「そうそう、ほんと!

アリヤ、もうプロDJ、目の前やん!」


アリヤは、ふふっ、と笑って、


「そんな甘くない、ってわかってるよ。

・・・でも、うれしいね」


そして、遠くを見ながら言った。


「・・・あたしも、これで吹っ切れた」


アリヤは、もうすでに明るくなった朝の空を見上げて、はるか上を指さしながら声を上げた。


「いつかあたしもさ、素敵なラヴァ―、見つけるよ!

・・・アズミとニシキさんのように」


それから、マキとユウタの二人に向き直り、二人を指さして、


「・・・そして、マキ、ユウタ、あんたらのように、ね!」


マキとユウタは、顔を見合わせて、少し赤くなった。


「・・・ちょっとアリヤ、何言ってんの」


「アリヤな・・・」


アリヤは、


「ふふっ・・・。

負けないよー、あんたらにはー!」


そう言って、いつもの陽気で元気な様子で、片手の拳を突き上げた。

マキとユウタは、そんな彼女を見て、思わず吹き出した。


・・・よかった・・・。

アリヤ、なんか前よりも、ずっと強くなったように見える・・・。

マキはそう感じた。


三人は、そうやって笑いながら、駅までの道を歩んでいくのだった。

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