第11話 神殿も危険なの!?
聖獣を送り出した後、ララとリリアンヌは自室に戻った。
ララは、部屋のテーブルランプを一つだけ点けて窓際の椅子に座り、聖獣のチョビが戻るのを待ちながら考えを巡らせていた。
叔父様は私を孤立させるために、メイド達を遠ざけたのね。
ララはそう思い、ため息をついた。
しかし、幸いな事にマルタンは神殿内の状況をあまり把握していないようだった。
この神殿は八割以上が女性聖職者だ。きっと、平和主義の女性聖職者などなんにも出来ないとタカをくくっているのだろう。
マルタン公爵は、神殿には全く興味が無いらしく、昔からほとんど神殿には来ないし祈っている姿も見たことは無かった。
とりあえずここには信頼出来る巫女達がいるし、毒を盛られるような事は無いと思うけど……
それでも、このままではいけない
危険すぎる
叔父様はわたしとジェームスを結婚させて実権を握る気でいる……
ララは無意識に爪を噛むような仕草をして、それから窓の外の月を見た。
……聖獣がここを出て3時間近く経ったわ
聖獣ならもうアーロン殿下の元に着いているはず。アーロンの事はきっと聖獣が助けてくれると信じるわ。
そして、アーロン殿下がエルドランド王国の王宮に戻れれば、さすがに叔父さま達もアーロン殿下には手が出せないだろうからいいとして……
わたしも逃げなければ――――
彼らは、きっとこの三か月で何か仕掛けてくるわ。その為に私を神殿に籠らせたに違いないし……
おじい様の代から今までずっと、裏で悪事を働きながら巧妙に人を操って来た人達だもの、このまま一緒に居ないほうがいい。
何か方法を考えなければ
ララは、さっき見たマルタン親子の光景を思い出し身震いする。
そして、うわべのだけの親切なふるまいや、嘘の笑顔に騙され続け、今まで自分がどれだけ愚かだったかを痛感した。
叔父様は優しい顔をして、”恨を詰めるのは良くない”と言って勉強の時間を短くしたり、”まだ子供なんだから無理はしなくて良い”などと言って政務の話に入らせなかった……
私の為と言いながら、本当は、私にバカな皇女でいて欲しかった、そう言う事だったのよね!
ああ、私はなんて愚かだったんだろう
ララは怒りがこみあげて来る。
ララはじっと座っていられず、立ち上がって窓辺に行き、外の景色を見た。
おあいにく様ね、叔父様。
私は、あなたが思っているような能天気で何も知らない無垢な皇女ではなくってよ。
きっと、おじい様やお母さま、そして、お父様の仇は取らせてもらうから、覚悟する事ね。
ララは自分を鼓舞する意味もあり、心の中で宣戦布告の言葉を呟き、力強く決意に満ちた顔で月を眺めた。
そして、ララはエイドリアンと一緒に眺めたケールの月を思い出す。
彼らに謝罪しなければいけない……
ララはそう思った。
それから、エイドリアンの妹さんの事も……
エイドリアンに伝えなければいけない
その事を考えるとララの表情は曇った。
コンコン
ドアがノックされ、その音にララが少しビクンとする。
誰? リリアンヌじゃないわよね。
明かりも消していると言うのに、一体誰かしら?
ララは返事をせず、音も立てないようにして怪訝そうな表情で扉を見つめる。
「あのぅ、陛下……」
巫女の一人の声だ。
非常識な巫女の声にララは何も答えず様子を見る。
「もう、眠っていらっしゃると思います」
ドアの向こうで巫女が小さな声で誰かに伝えている。
「平気だよ、僕なら中に入れてくれるさ」
男の声だ。
ララはその声を聞いてゾックとする。
それは、ジェームスのものだったからだ。
どうしよう……
ララはキョロキョロして、ガウンを見つけ、慌ててガウンを羽織った。
「困りますよ」
巫女の声は弱々しい。
「いいんだよ。ララ、僕だよ入るね」
そう言い、遠慮なくドアが開けられた。
「あ」
巫女は立っているララの姿を見て小さな声を上げ青くなる。
「やっぱり起きていたね」
ジェームスは巫女の様子などお構いなしにつかつかと部屋に入って来た。
手にはワインボトルとグラスを持っている。
「君と、飲んで乾杯しようと思ってね」
ジェームスはそう言うと、窓際に置いたテーブルの上にワインボトルとグラスを置く。
「……お兄様、こんな時間にどうされたの?」
乾杯!? 何の乾杯よ! と、心の中では叫んでいるが表には出さず、ララは出来るだけいつもと変わらないように振る舞う。
「眠れないだろうと思ってさ」
そう言いながらジェームスはグラスにワインを注いでいく。
「お兄様、お父様の喪に服しているのに乾杯なんて出来ないわ」
ララがそう言うと、ジェームスは少し考える顔をする。
「そりゃあ、そうだな。すまない、君が心配だったからつい」
「いえ、いいのよ、ありがと……」
バタン!
突然、ドアが閉じられた音が聞こえ、ララが驚いてドアの方を見る。
――えっ?
さっきまで居た巫女は姿を消していた。
閉められたドアを見てララは驚き呆れる。
なんて非常識な巫女なの!?
いくら何でもこんな時間に男の人と二人っきりにしてドアを閉めるなんてありえないでしょ? あの子、巫女のくせに買収されているの!?
ララは怒りが込み上げるが、それを悟られぬ様、無理やり顔に柔らかい笑みを貼り付けながら、心の中で叫ぶ。
前言撤回だわ!
信頼できる巫女もいるけど、ここにもこの人達の手の者がかなりいるのかもしれない!
ここもやはり危険ね!
「飲もうよ,ララ」
ジェームスは、そう言ってグラスをララに渡す。
ララはグラスを受け取るが、すぐにテーブルにおいた。
「ごめんなさい、お兄様、とても眠いので、もう寝るわ」
ララは微笑む顔を崩す事無くそう言う。
「そんなこと言わないで少しだけ飲もうよ」
ジェームスはしつこくそう言った。
ああ……リリアンヌを寝かせるべきでは無かったわね……
この男、どうやって追い出そうかしらっ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます