第2話 おじさんの妖精
やっとのことでチュートリアルを抜けられた。丁寧な説明だったとは思うけれど、上手くできず何度も同じメッセージが出てきて怒られている気分になってしまった。
そして、転送されてきたのは始まりの村で噴水広場の名称がぴったりな場所にプレイヤーであろう姿がひしめき合っていた。
どのキャラクターも髪色だったりが奇抜で現実離れしている。ランダムで自分をベースにとの項目を見て一般的なやり方だと思ったのだが。
周りから浮いていて少し恥ずかしい。目立つのは苦手、とはいえ一プレイヤーに過ぎないのだから注目されるなんて考えは自意識過剰だ。
切り替えてマップを開き、チュートリアルで教えてもらったクエストマークを探す。あそこかなと見てみると人だかりができていたので分かりやすかった。
「おお、来てくれたか冒険者よ」
そこにいた村長らしき人物に話を聞く。冒険者というのがプレイヤーの職業で様々な問題ごとを解決していくようだ。
村長には村の近くにいるイッカクガエルを倒してほしいと言われ、メニューのクエスト欄に依頼が追加された。
さすがに回復だけでは話が進まないのか。前向きに新しい体験として色々楽しもう。
新鮮さしかない人波を眺めて別世界を感じながら村の外へ出る。しかし、さすがにサービス開始直後とあってここにも人が多い。
他のプレイヤーが戦っている相手がイッカクガエルだろうか。一本の角が生えたカエルに見えるが、大きくデフォルメされている。これならカエルが苦手な人でも安心だ。
没入型のコンテンツはリアルの加減をどうするかが悩みどころになる。どうやらそれはゲームでも同じらしい。
ふらふら森を彷徨って川の近くにイッカクガエルを見つけた。
「ゲコ、ゲコ」
現実でいつ聞いたかも分からないカエルの鳴き声に、不思議と懐かしさを覚える。
チュートリアルを思い出して杖を構え、イッカクガエルの前に立って振り下ろす。
「ゲコッ!」
ダメージを与えた手ごたえ。攻撃のタイミングを計れという教えの通り一度後ろに引くと、イッカクガエルが体当たりをしてきた。
ここでもう一度近づいて攻撃だ。
「ゲココッ!」
イッカクガエルは引っくり返り、小さなポリゴンになって消える。同じタイミングで視界の端にログが流れた。
≪イッカクガエルの角を入手しました≫
これは……アイテムかな?
「トリガー、メニュー」
音声コマンドでメニューを開いてアイテム欄から確認してみる。
【イッカクガエルの角】
『種類』調合素材
『説明』イッカクガエルに生えていた角
表面に粘性のある液体が付着してぬめぬめする
こんなアイテムにも説明書きのテキストがあるのか。ぬめぬめは嫌だけれど、調合は面白そうだ。
森を彷徨いさらにイッカクガエルを探していると、小さな池のほとりで巨大なイッカクガエルと戦っているプレイヤーを発見した。
チュートリアルで習った意識を集中してのターゲットで、名前がイッカクガエル・ダディと出てくる。体力が残り八割ほど。続けてプレイヤーをターゲットすると体力が半分を切っていた。
「よし」
僧侶の出番にはうってつけのシーンだ。
「トリガー、詠唱」
まずは魔法の発動準備である詠唱を行う。魔力を使う魔法はこの工程を踏まなければならなかった。
――シュンッ!
変な音が聞こえて杖の先が光る。詠唱が完了した合図だ。
詠唱には段階があって強力な魔法になるにつれ時間がかかるようだが、ヒールは初期魔法なので大丈夫。
「トリガー、ヒール」
ターゲットしていたプレイヤーが緑色の光に包まれ、体力ゲージが右端まで回復した。
「ありがとうございます!」
回復に気づいたプレイヤーがお礼を言ってくる。じっと見守り二度目のヒールをしたところでイッカクガエル・ダディは倒された。
「助かりました!」
満面の笑顔にどうしていいか分からず、頷くだけでその場を離れることにした。
現実では息を切らす距離を走って木陰に座り込む。そういえば、人にお礼を言われるなんていつ振りだろうか。少し気分が良くなった。
そこでふと亡き祖母が残した人様の為になることをしなさい、という言葉を思い出した。感謝に気持ち良さを感じては結局、自己満足にしかならないのではと考えてしまう。
宝くじが当たり幸福を享受した今、無償の愛に似た精神こそ第二の人生に必要な気がしてきた。
ゲームのプレイに当たって早速、遊び方が見えてくる。こっそり回復をして逃げる。それが今の自分にできる最低限の、人とつながる方法に思えた。
◇
【DAO】始まりの村近くにある森で回復魔法が飛んできたんだけど
1 名前:名無しの古代人
てっきりチュートリアルの延長かと思ったのに
イッカクガエル・ダディに挑んだら死んだ
2 名前:名無しの古代人
イッカクガエル・ダディって何?
3 名前:名無しの古代人
でかいイッカクガエル
一定数のイッカクガエル討伐で出てくるらしい
4 名前:名無しの古代人
回復魔法が飛んでくるギミックがあるってこと?
5 名前:名無しの古代人
おじさんみたいなキャラが木陰にいたのは見た
回復魔法を他プレイヤーに使ってたよ
6 名前:名無しの古代人
おじさんの妖精ってよく聞くよな
7 名前:名無しの古代人
森に住んでるNPCとか?
8 名前:名無しの古代人
フラグ立てたらイベント起こりそう
9 名前:名無しの古代人
イベント名:原住民との邂逅
10 名前:名無しの古代人
むしろ倒したら回復魔法の書をドロップしたり
11 名前:名無しの古代人
親父狩りかよ
12 名前:名無しの古代人
なんにしても情報待ちか
13 名前:名無しの古代人
ランダムイベント的なのは遭遇したな
14 名前:名無しの古代人
凝ったゲームだとサービス開始数年後とかでもさ
隠された扉が発見されたりするし
15 名前:名無しの古代人
プレイヤーに対抗して運営も張り合う風潮はある
16 名前:名無しの古代人
張り合い過ぎた結果
サービス終了まで見つからないこともあり得る
17 名前:名無しの古代人
ないよりはあったほうがいいだろ
18 名前:名無しの古代人
木陰にいるおじさんを見つけたらぶっ飛ばせばいい?
19 名前:名無しの古代人
おじさんも苦労してるんだ
優しくしてやれ
20 名前:名無しの古代人
先月五十歳になった俺より年上だったらな
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