第298話 空を飛べるなら

さっとマリアローゼを抱き締めて、涙を拭いながらジェレイドは微笑む。


「吃驚させてしまった事は謝罪するよ、ローゼ。でも君の大事な兄を傷つけたりしないと誓っただろう?」


「はい……確かに、お兄様達は反省するべきですわ……」


「ごめんローゼ、もうしない」

「ローゼ、ごめんなさい」


ジブリールとミカエルのそれぞれの謝罪に、マリアローゼはこくん、と頷いた。


「謝罪を受け入れますわ。もう、あんな風に危険な事をなさって、心配させるのはおやめくださいませ。もし同じ事をしたら、嫌いになってしまいますからね」


「やだ」

「やだやだ」


言いながら二人は、マリアローゼのふわりと広がったスカートの裾に頭を埋めた。

マリアローゼは嘆息を吐き、二人の赤い跳ね返った髪を小さな手でなでなでと撫でる。


「もし空を飛びたいなら、きちんとした魔道具を作りますから」


「「「「「えっ」」」」」


それはその場にいた数人を除く全員が驚いた発言だった。


「「飛びたい!!!」」


真っ先に反応したのは、スカートに甘えて顔を伏せていた双子で、顔を上げてキラキラした目を向けた。

マリアローゼは言ってしまってから、あっ、と思ったがもう、取り返しはつきそうにない。


「領地に行きましたら、工房にお願いしておきます。あと、飛ぶ前には練習も必要になると思いますし、最低限の安全を確保できるまで、使用は控えて頂きます。それに、身を守る為にも、魔法の修練はかかせません。

きちんとお勉強なさってくださいませね」


「「する!!」」


言質をとったマリアローゼはにっこりと微笑んだ。

これで暫く双子はきちんと勉強に向き合うだろう。

興味のある事か、それを餌にすれば、彼らは驚異的な速度で成長をするのだ。


「グライダーを作るのかな?」

「はい、二種類とも製作してもらおうかと思いますの。出来れば小さく収納できて、持ち運び可能な物を…」

「ふむ、楽しそうだね」


ジェレイドの言葉に、マリアローゼはうんうん、と頷きながら答えた。

最近までは気球や飛行船を考えていたのだが、それはそれとして個人で利用できる乗物も良いと思えて

提案したのだが、軍事利用できなくもない技術なので注意は必要かもしれない。

その辺りはまた、兄達やジェレイドと話し合いをして決めなくれは、と思いながらふと視線を感じて見ると、ユリアが慌てて顔ごと視線を逸らした。


「ユリアは置物ですので、お気になさらず。何も聞いておりません!!」


「いえ、ユリアさん達にも必要な装備でしたら、レイ様とハセベー様の間で話し合って頂ければと思います。移動が格段に楽になると思いますし…」


言われたユリアは、きょとんとしてから首を傾げる。


「グライダーってそんなにスピード出ましたっけ?」


「ええと…ここから王都まで1日以内に到着出来るかと思います。きちんとした性能と技術があれば、のお話ですけれど……」


「ヒエッ」


ハンググライダーなら、最高で100kmの時速が出たはずなので、馬車で一日進む行程を考えると、

5日の距離なら単純計算で5時間程度なのだが、その間体幹を維持しつつ、更に上昇気流を捕まえたり、安全性を考慮すると中々に難しいと思われるが、ユリアはその全てを攻略出来そうな人材なのである。

可愛く驚いているものの、体力お化けのユリアなのだ。

マリアローゼはジト目でそんなユリアを見詰めた。


「領地からなら2日くらいかな?」


とシルヴァインに聞かれて、マリアローゼはううん、と考え込んだ。


「基本的に地上からより、高い場所に上ってから滑空するのが宜しいかと存じますので、領地の高い場所から飛び、一度この町辺りで降りて、あちらの高い峰から再度飛ぶのが良いかもしれませんけれど、魔道具としての開発具合に寄りますわ。楽に気流を操れるのであれば、わざわざ高い所に登る必要はございません。

その分の時間を削れるなら、更に時間は縮まります。

でも、長い間同じ姿勢を維持するのは難しいので、一旦は何処かで降りて、食事や休憩を取った方が無難かとおも、い……ますわ……」


質問された事に答えようと真剣に考えて話していたので、周囲が丸い目をして注目しているのに気づいて、

マリアローゼは慌てた。

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