第281話 兄達への相談
「…という訳ですの」
マリアローゼは午前中のラクリマ侯爵夫人の一件を、余すことなく勉強会で伝えた。
シルヴァインはふむ、と少し考えてから、マリアローゼを見詰めた。
「俺達に出来る事はなさそうだけど、普通の使用人として扱うので構わないんだろう?」
「ええ、それで構いませんわ。ルーナとノクスも、何か気になる事があったら教えてね」
「「はい」」
二人は声を揃えて返事をした。
「しかし厄介そうではある。もし最初から仕組んで近づいてきたのなら、相当の策士だぞ」
マリアローゼはシルヴァインの問いかけに、口を引き結んで沈思した。
それは考えていた可能性の一つではある。
だが、数年間は確実に虐待とも思える待遇を耐え忍んできたのは事実だ。
「そうですわね。わたくしは、彼女が心から自分の成長を望んで努力する為に、わたくしとこの環境を
上手く利用するのであれば、それはそれで構わないと思っているのです。
でも、もし誰かを傷つけたり、害になるようでしたらその時はきちんと対処致します」
頬杖を付きながら、シルヴァインは手元の辞書をパラパラと捲った。
「俺は君を利用されるのは嫌だが、それは我慢しよう。だが、何れ侯爵家に引き取られるのなら、
他の公爵家を含めて王族にも、婚約を望んでくるかもしれない。相手から望まれるほどに努力を重ねて
堅実に育てば別だが、そうじゃない場合は俺なりに動くよ」
シルヴァインが言う事は最もだ。
流石にマリアローゼもそこまで、ステラに対して過保護ではないので頷いた。
「それも、お任せ致します。もし、他の従業員に迷惑がかかるなど何かありました場合は、シルヴァインお兄様を防波堤にさせて頂きますわね」
にっこりと微笑みながら言ったマリアローゼの言葉に、ミカエルとジブリールが笑い始めた。
「ふうん?俺の愛を試しているんだね。いいじゃないか、受けて立とう」
にっこりと微笑みながら言い返され、マリアローゼはぽかん、と口を開けた。
一番、処世術が長けているからお願いしただけなのに…
そして、シルヴァインのそういう愛を計る言葉に敏感な兄達がまたもや参戦してくる。
「え、ずるーいずるい!俺がやる」
「駄目だって、俺がやるんだよ」
笑っていた双子が、我先にと名乗りを挙げたので、マリアローゼは他にも何か言い出しそうな他の兄達を抑える為にぴしゃりと言った。
「他のお兄様方には、それぞれお願いしたい事がございますので!
この件は何かあったらシルヴァインお兄様にお任せ致します」
「俺達のお願い事って何ー?」
とミカエルが聞いてきて、すぐにジブリールも反応する。
「叶えたら何くれるのー?」
相変わらず現金な双子なのである。
マリアローゼもそこまでは考えていなかったので、うーんと小首を傾げてから答えた。
「ご褒美については、それぞれの宿題に致しましょう。ローゼが出来る事でないと駄目ですからね?」
一応念押しすると、双子は揃って両手を挙げて喜んだ。
「うーん、何がいいかな?楽しみだなぁ」
「ふむ。じっくり考えなくてはいけませんね」
「………むぅ」
シルヴァインが虎視眈々とした目で言えば、キースも真剣に頷き、ノアークに至っては考え込んでいる。
マリアローゼは、ノクスとルーナにも向き直った。
「二人もきちんと考えておいてね」
「え?私達もですか?」
ルーナが驚いた声をあげて、ノクスと顔を見合わせる。
「私達はこうして、お嬢様にお仕えして一緒に過ごせることが一番の幸せですので…」
とノクスが言うと、ルーナもこくこくと何度も頷く。
なんて、無欲な子達なのだろうか……
思わず振り返って見ると、兄達はそれぞれ真剣に…でもうきうきとご褒美について悩んでいる。
物欲と煩悩に支配されている……
天と地程の違いなのである。
「分かりました。では、二人のご褒美はわたくしが考えておきますので、楽しみに待っていてね」
マリアローゼが笑顔を浮かべると、二人はとても嬉しそうな顔ではにかんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます