第277話 キスの意味は

次にキースが机越しに身を乗り出したので、マリアローゼもキースに身体を近づけると、髪にそっとキスを落とされる。


「これからも、ちゃんと守りますからね」

「ありがとう存じます、キースお兄様。頼りにしておりますわ」


そして最後のボス……シルヴァインは屈託のない笑みを見せている。


「俺はどこにしようかなー…全員と違うところがいいなぁ」


不穏な空気を感じて、マリアローゼはとりあえず口を両手で防御した。

だが、シルヴァインはそれを特に気にした風も無く、くい、と顎を掴んで顔を上向かせる。


そ、そ、そういう行動が女たらしなのですわ!!!!!


「さあ、目を閉じて、ローゼ」


言われなくても、間近に顔があったら直視する勇気はありません!!!


ともいえずに、マリアローゼはぎゅっと目を閉じている。


ちゅ、と唇が触れたのは瞼だった。

そして、力を抜きかけた時、もう片方の瞼にもちゅ、とキスを落とされる。


「あ……2回、2回は反則ですわ……!!」


目を開けられないまま、口から手を外して抗議するが、笑われただけだった。


「そういうルールは最初に決めておかないとね」


最近色々あっただけに、唇をガードしてしまって、逆に意識をしているようで恥ずかしくなったマリアローゼは、顔を薔薇色に染めたまま、シルヴァインを睨んだ。


「ローゼ、悩んでも仕方ない事は悩まなくてもいい。解決してほしいなら俺達に相談して」


ああ、そうか。

浮かない顔をしていたから、元気付けてくれたのですね……

いや、違う。

多少……かなり、楽しんでいた部分はあったはず。


流されそうになりつつ、それでも兄の言葉は真実なので、マリアローゼはこくん、と頷いた。


「確かに仰るとおりです。遠慮なく頼らせて頂きますわ」


そして、マリアローゼはノクスとルーナに向き直る。


「さあ、頑張ったのですからノクスとルーナも、わたくしにキスをしていいですわよ」


自分で言っておいて、マリアローゼは何て上から目線な要求をしているのかしら?と混乱した。

勢いで言ってしまったのである。

兄達は反対するかと思いきや、興味が勝ったようで、侍女と侍従である二人をじっと見ている。

ルーナは、薄っすらと頬を染めてこくん、と頷くと、マリアローゼの頬にそっと、唇を押し当てた。


「これからも、ルーナはお嬢様の為に頑張ります」


にっこりと笑って、マリアローゼも微笑み返した。

ルーナがノクスの為に身体を退けると、ノクスはマリアローゼの手を掬い上げて、手の甲に触れるだけのキスを落とす。


「私も、お嬢様の為に精進する所存で御座います」


と、侍従らしいきちんとした佇まいに、兄弟もマリアローゼも感心したように頷いたが、ルーナだけは顔を真っ赤に、トマトのように真っ赤に染めている。


「あ、あの、私、……失礼な事を……」


手、という選択肢を忘れていたからだろうか?


流石に兄達がくすくすと笑うと、ルーナは固く目を瞑ってしまった。


「ルーナ、ルーナはわたくしのルーナなのですから、何処にキスしてもいいのですよ」


そう言いながら、マリアローゼは赤く染まったルーナの頬に唇を押し当てる。


「ね?ルーナ」


驚いたように目を開けたルーナに、マリアローゼが微笑むと、漸くルーナも頷いてはにかんだ。


「はい、お嬢様」

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