第269話 イケメン兄達の圧のせい

ベルグランデ伯爵の令嬢イザベラは、先陣を切ってドヤドヤと言う感じで歩み寄ってきた。

それもそのはずで伯爵家の中では上位であり、領地も豊かで金銭的にも裕福だ。

ただ、その勢いはマリアローゼを前にして、というよりは立ち並ぶイケメン達の視線に晒されて、

いきなり消失した。


「あ、あわ、わたくしはイザベラともうしゅまふ……」


思い切り噛んだ。


とても切ない気持ちになりながら、マリアローゼは微笑んで、ふわりとスカートを摘んでお辞儀を返す。


「わたくしは、マリアローゼ・フィロソフィですわ。宜しくお願い致しますね」

「は、はい…」


挨拶が終ると、イザベラは逃げるようにさささっと立ち去ってしまった。


いたたまれない……。


もっと高圧的なのかな?と思っていたのだが、そうではないらしい。

それからは、おずおずというように伯爵家の方々との挨拶が続き、ワースティタース家の面々が目の前にやってきた。

切れ長で釣り目の長男に、絶世の美少年と言われる次男、その次の長女は釣り目の少女だ。

全員緑系の配色で、目に優しい色をしている。


それぞれと挨拶を交わすが、令嬢のスピーナの様子がおかしい。

何故かマリアローゼを見て、頬を染めている。

それからハッとして、シルヴァインを見て、真っ赤になり逃げ去って行った。


やはりこれは…お兄様達の圧が凄いのでは。


振り返ると、普段どおり……よりちょっとイケメン度が増した壮々たる出で立ちなので、無理はない、と思う。

シルヴァインは普通に寛いでサンドイッチを食べているし、キースやノアークも飲物を手に立っている。

双子はうずうずしているが、賭けがあるので静かなものだった。


更に挨拶は続き、ピンクゴールドの髪の少女が、お菓子をもって近づいてきた。

マリアローゼがシルヴァインを見ると、シルヴァインもマリアローゼを見ている。

既視感、である。

ピンク系の髪色はリトリーを想起させ、更にヒロイン枠のような気もして、実際シルヴァインも少し警戒している様にマリアローゼは感じた。

しかも、マリアローゼが不在の間にあった祝祭で「花の乙女」役に選ばれた美少女である。

目も淡い綺麗な桃色で、見た目にあった可愛らしさだ。


「わたくし、フローラ・ウェールと申します。……あの、これお薦めのお菓子です」


と差し出されたのは、公爵家が机に並べたお菓子で、マリアローゼも好きな物だった。


「わたくしは、マリアローゼ・フィロソフィですわ。あ、有難う存じます」


折角なので受け取って、食べようと思って口を開けると、今正に差し出してきた筈のフローラが、


「だめーーー!」


と叫んだ。


「えっ?」


「知らない人から貰った物を、口にしてはいけません!」


今挨拶したのに…それに、


「お、おすすめのお菓子を持ってきてくださったのでは……」


「駄目です!そんな、簡単に人を信用しては…だめですっ!」


言うが早いか、受け取ったお菓子も取り上げて、走り去ってしまった。


一体、何がおこったのかしら……?


ぽかん、とするマリアローゼの後ろで、双子が爆笑している。

シルヴァインは困ったような顔で肩を竦めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る