第268話 いざ、祝宴へ

一瞬不満そうな顔を見せたものの、シルヴァインは肩を竦めた。


「仕方ないなぁ。本当は俺の役目なんだけど、ローゼがそう言うのなら」


他の兄達もそれには同意する。

シルヴァインの不満顔も単なる建前だとマリアローゼは思っていた。

マリアローゼのエスコートを任されるというのは、公爵家でのノアークの立ち位置が悪くない事を知らせる為だ。

他の人から軽んじられたくないという、マリアローゼの意思でもある。


一瞬、ノアークは身を硬くしたが、拒否はしなかった。

マリアローゼは真っ直ぐにノアークを見上げて幸せそうに微笑む。


「ローゼのお願い、聞いて下さいますか?」


「……ああ。俺で良ければ」


どこか済まなそうに、ノアークはそう言った。

拒否したり遠慮したりしないだけ、進歩したのだとマリアローゼはにっこり微笑む。


「ノアークお兄様が良いのです。特に、今日の装い、髪型も素敵ですわ」


「……………う」


ノアークは片手で顔を隠すように伏せてしまった。

もちろんのこと、耳まで真っ赤になってしまっている。


やってしまったわ。


本番前にこんなに照れさせてしまって申し訳ない気持ちに包まれつつ、

マリアローゼはノアークを見詰めた。

何時もなら野次を飛ばす双子も、空気を読んで静かに様子を見るだけに留めている。


「そろそろだな」


シルヴァインの静かな声が響く。

玄関の扉の前に従僕が二人立ち、両側から扉を開ける。

庭には既に招待客達が居て、母親達は天幕の下で歓談しており、子供達は庭にあるテーブルの周りに集っている。

そこへ、ノアークがマリアローゼのエスコートをして現れると、子供達も付き添いでやってきた夫人達も息を呑んだ。

各々が異なる魅力を振りまく兄妹の美しさに、言葉を忘れたように、静けさが広がる。


マリアローゼは天幕の前まで来ると、足を止めてスカートを広げながら丁寧にお辞儀をした。


「公爵家が末娘マリアローゼでございます。本日は急な招待に応じて、お運び頂き有難う存知ます。

どうぞごゆるりと楽しんで参られませ」


その挨拶に重ねるように、背後に並んだ兄達も左胸に手を当てて丁寧にお辞儀をする。

マリアローゼが振り向いて、再びノアークの腕に手を絡ませると、その場から全員立ち去って行き、

子供達の集まるテーブルへと向かう。


最初は子供達も挨拶から始まる。

今日のお茶会に、他の公爵家の人間は参加していない。

勿論王族も来ていない為、家格が一番高いのは主催のフィロソフィ公爵家となる。

兄達の煌びやかさにざわざわと緊張して取り巻いていた人達も、

先陣を切ったペルグランデ伯爵家を筆頭に徐々に挨拶をしに寄ってきた。

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