第264話 突然のお茶会
「あ、そうですわ!一応今回の旅程で立ち寄る領地や地域について少し学んでおかなければ」
「はい。そう仰るかと思いまして、用意は出来てございます」
嬉しそうにルーナが、部屋に設えられている本棚から、3冊の本を取り出してマリアローゼの目の前に置いた。
優秀過ぎる侍女なのである。
「有難う存じます、ルーナ」
驚きつつも、ルーナの仕事ぶりに感心したマリアローゼは、目の前に置かれた本に手を伸ばした。
「明日はお茶会を開く事になりましたわ」
突然、母が晩餐の席で爆弾発言をかました。
父は、困った様に微笑して、叔父はその言葉にうんうん、と相槌を打っている。
兄達同様、マリアローゼはぽかん、と口を開けてミルリーリウムを見詰めた。
普通、お茶会と言うのは準備も含めて、最低でも1ヶ月を要するものだ。
当然の如く、招待される側もそれくらい準備期間として必要としている。
金銭に余裕がある高位貴族ならば、季節毎に相応しい装いのドレスに加えて新しいドレスの用意は可能だが、そうではない貴族は今日連絡して明日参加しますと言えないだろう。
ドレスの発注には時間も費用もかかるのだ。
勿論、母は子供達以上にそんな事情に通じているので、何と言っていいのか分からなかったのだ。
シルヴァインが、静かに質問を口にした。
「では、旅立ちは明後日、という事になりますか?母上」
「ええ。御免なさいね、急にこんな事になってしまって……」
はっとしてマリアローゼが続けて質問を投げかけた。
「あの、どうして急にこんな事になりましたの?」
ミルリーリウムは頬に手を当てて、ふう、と溜息をついた。
「それがね……ずっと情報を伏せていたのですけど、最近旅の準備をしていましたでしょう?
領地へ帰るまでに是非、お茶会をという手紙が立て続けに届いてしまって。
此処最近何度か中座したり、お断りした方のお誘いもあったので、断るのも……
それに、もう既に領地へ向けてお帰りになられた方々もいますし、急には参加出来ない方もいらっしゃるから強引ですけれど、義理を通すのにいいかしら、って思いましたの」
つまり、平等に全員呼ぶ振りをして、来れない事情がある人を振るい落としたのだ。
中央に残り、帰る領地の無い低位貴族はドレスが用意できずに、断る可能性は高い。
片や遠い地域に旅に出てしまった辺境貴族は、金銭的な余裕はあっても、既に王都を発っている。
しかも、高位貴族とはいえ、慣習を無視するかのように急に開かれるお茶会、なので
「急だったので、対応出来なかった」という断りをしても角が立たないのである。
こちらとしても、多方面から領地へ帰る前にお茶会の希望があった、という建前もあるのでそう説明も出来る。
強引ではあるけれど、色々な言い訳を考えられる策をとるというのは、やはり百戦錬磨の母の腕だ。
「王族の方々はいらっしゃらないという事ですよね?」
と確認の為にキースが問いかける。
ミルリーリウムはにっこり微笑んで、こくりと頷いた。
「流石に今日の招待状で、明日来ると言えば我が家との繋がりが濃すぎると反発を受けますでしょう。
ですので、招待状に添えて、王妃殿下には事情をお伝えするお手紙を送りましたわ」
ふむ、とマリアローゼは母の答えに頷く。
「それに、最近ローゼには親しい友人が出来ましたでしょう?明日ももしかしたら出来るかもしれませんわね」
優しげな母の声に、マリアローゼはハッと顔を上げた。
確かに今日も、服選びの最中に嬉しくて何度かディートリンデの話をしていたのだ。
まさか、自分の事まで考えていてくれたとは思わず、マリアローゼは胸が温かくなった。
「有難う存じます。お母様。明日の準備はルーナと致します」
母に恥じないように立派な淑女として振る舞わなければ、とマリアローゼは心に誓った。
そんな爆弾発言の後の団欒の最中に、家令のケレスの元に副執事が現れて、何事か耳打ちをしている。
珍しい事なので、紅茶を飲みながら子供達は顔を見合わせた。
ケレスが父と母に何事か話し、母が小さく、まあ、と言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます