第256話 初めてのお友達

「お嬢様、こちらを」


部屋に戻り晩餐の仕度も済み、お茶を飲む傍ら、ルーナの差し出した銀盆の上には、封筒が一通置かれていた。

先日出した手紙の返事にしては早すぎるし、領地に行く前に王子達から手紙が届くとは思えない。

銀盆の上にペーパーナイフが無い所を見ると、封も開けてありそうだ。


「今朝、届いた手紙を持って旦那様が登城され、確認したものを午後にお屋敷に届けられたのでございます」


マリアローゼはふむふむ、とルーナの言葉に頷いた。

デビュタント前であり、未だ幼いマリアローゼに直接手紙が届いたら、家人が確認するのは当然の事である。

裏を返して、差出人を見ると、そこには綺麗な字体で「ディートリンデ・アーベル」という名が書かれていた。

アーベル……聞き覚えがあるのは、神聖国で出会った父の友人のナハト・アーベル伯爵と、子息のグレンツェンだ。

夫人か、姉妹か、どちらなのだろう、と興味を引かれつつ、中から手紙を取り出すと、

一緒に白いリボンが封筒から零れ落ちた。


「まあ……」


そして、微かに花の香りも漂っている。

白いリボンは縁取りが半円になっていて、綻びないよう綺麗に縁取りの刺繍が施されている。

そして、リボンの真ん中は端から端まで、薔薇と蔓を意匠とした刺繍があしらってあり、同じく白い光沢のある色で縫い取られている為、遠くから見ると一見刺繍があるとは分からない。

光の加減で、その凹凸が浮き上がると刺繍が見えるのだ。

勿論、手にとって見れる距離ならば、同色で刺繍されているのは視認できるのだが、これは見えないお洒落という高度な技術である。

そして、始めと終わり、全ての縁に縁取りの刺繍がされているので、切り売りされている物では無い、

完全オーダーメイド…もしくは手作りである。

流石に縁取りを貴族の子女が行うとは思えないし、子息とお茶をして、彼らが家に着いてからの手紙だとしたら、間を置かず出したものだろうから、刺繍をする時間は無いと思われる。


高尚かつ贅沢な意匠のリボン。


改めて手紙を読むと、ディートリンデはグレンツェンの姉君だという事が分かった。

丁寧に、時候の挨拶から始まり、旅での苦労を労わり、そして、グレンツェンとのお茶会の御礼に続き、同じ歳の頃の友人がいないので、是非友人になりたい事と、文通をしたいという希望が書かれていた。


書かれていた!!!


友人!!!


わたくしもいませんわ!!!!!!


マリアローゼはふんすふんすと手紙に向かって頷いた。

是非お近づきになりたいし、御友人になって頂きたい。


手紙は一枚だけだったが、もう一枚紙が添えられていて、見ると鉛筆書きのような肖像画が描かれていた。

一人はグレンツェンに良く似た少年が立っており、手前の椅子に黒髪の…多分グレンツェンと同じ髪色の少女が描かれている。

精緻な人物画は、本人が描いた物らしい。


拙い絵ではございますが、お会いした時にわたくしだと分かりますように。


と一文が添えてある。

この大陸にはまだ鉛筆は存在していない。

原料となる鉛が発見されていないのかもしれないが、木炭で描かれている絵はとても素晴らしい出来だ。


才女!!!


字も美しければ、絵もこの上なく上手く、意匠を凝らした贈り物を同封し、とても良い香りの香水も使っていらっしゃる。

今まで会った同年代の女性は、生前のオリーヴェであるクレイトン嬢、ダドニー嬢、

テレーゼとリトリーだが、二人は転生者のため比較してはいけないのだが、淑女ではなかった。


「早速お手紙を書かなくては!」

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