第254話 争わないで欲しいお嬢様
「シルヴァインお兄様、少し宜しいですか?」
勉強会の後、部屋に戻っていく兄達を見送りながら、マリアローゼはシルヴァインを呼び止めた。
「何だい?ローゼ」
「ジェレイド叔父様と争いませんよう、お願い致しますわ」
マリアローゼのお願いに、シルヴァインは笑顔のまま首を傾げた。
「嫌だな。争いはしないよ、今はね」
「でしたら良いのです。父上も何か仰って下さったようですし、わたくしからもその内お話をしたいと思ってます」
ふむ、と逡巡しながらシルヴァインは頷いた。
「叔父上について何か聞いたのかい?」
「ええ、お母様に、昔の事をお聞きしましたわ。予知をする能力があった事、わたくしが生まれるのを待っていた事、それを理由にお母様とお父様の間を取り持ち、家督を継がなかった事」
聞きながらシルヴァインは形の良い眉を顰めた。
全然関係のない人から聞いたのであれば、荒唐無稽すぎて信用しなかっただろう事は解る。
「多分、全て本当の事だと思いますの。
ですから、家族でもありますし、争うのは避けて頂きたいのです。
これは勝ち負けではありません。わたくしは家族の誰も失いたくありませんし、叔父様と話した結果はお兄様にも必ずお話します」
「分かった。そこまで君が言うのなら、暫くは様子見をしよう。それに、彼は俺の敵にはなっても君の敵にはならない。
殺しあうような真似は最初からする気はないよ」
苦笑するシルヴァインに、マリアローゼはにっこりと微笑みかけた。
「安心致しましたわ、お兄様。でも暫くは叔父様の事は無視させて頂きます」
「……ああ、それは、……うん、俺と争うよりも断然辛いだろうな……」
まるで同情するような口振りに、マリアローゼは少しだけ唇を尖らせた。
「仕方がないのですわ。わたくしの気持ちを無視して、こんな事を仕組んだのですから、わたくしも同じ事をさせて頂きますの」
「ふふ、ローゼは拗ねた顔も可愛いなあ」
頬をふにふにと指で押して、シルヴァインは幸せそうな笑顔を浮かべた。
元気になると話を聞かない。
マリアローゼは、そんなシルヴァインの腹筋を押して、部屋の外へと押し出そうと力を込めた。
「もう、お休みなさいませ。ローゼはもう眠いのです!」
ふんすふんすと押すマリアローゼに、強い強いなどと囃しながらシルヴァインは退室していった。
マリアローゼは、待機していたルーナに手伝われて夜着に着替えると、ベッドに潜り込む。
そして、うとうとしながら思い浮かべた。
各所への御礼や手紙は既に出したし、明日は図書館と温室に行って、領地への同行をお願いしないといけない。
特に、環境が変わったら大変そうな老齢のアノス老と、
人見知りで臆病なエレパースは本人達の意志を大事にしなくては。
「旅、ですか…」
思案するように、麗人ヴァローナが指を顎に当てて、少し視線を彷徨わせた。
アノス老の正確な年齢は分からないが、90年は齢を数えているだろう。
長旅は難しそうなものである。
「ええ、領地に入るまで1週間、邸宅までは更に3日で…10日ほどの旅程になると聞いております」
「少し、お時間を頂けますか?アノス老ともじっくり相談してみます」
「勿論ですわ。宜しくお願い致します、ヴァローナ」
ちょこんとスカートを摘んで、お辞儀をすると、マリアローゼは供のグランスとノクスを連れて、次は温室へと向かった。
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