第252話 二人への贈り物
着替える為に母も自室へ戻り、マリアローゼも自分の部屋へと戻った。
軽めの湯浴みを済ませて、ルーナに手伝ってもらいながら晩餐用のドレスへと着替える。
仕度が整う頃に、カンナとユリアもマリアローゼの部屋に現れた。
「お帰りなさいませ、カンナお姉様、ユリアさん」
「ただ今戻りました、お嬢様」
「ただいまです!はああー晩餐用のドレス姿も可愛らしい!」
今回は鮮やかな空色のドレスに、茶色の差し色と白銀の刺繍が入ったドレスだ。
色を合わせる様に、ルーナが結い上げた髪にも茶色のリボンをいくつも結ばれている。
「大袈裟だと思いますけれど、嬉しいですわ。あ、それと、わたくしお二人に差し上げたいものがございますの」
薄い手袋を着けた手をぱちり、と鳴らして、マリアローゼはいそいそと贈り物を取りに行った。
カンナとユリアは顔を見合わせて、?を浮かべている。
「お二人とも、目をつぶってらして」
「「はい」」
はにかみつつ、後ろ手に贈り物を隠しながら近づくマリアローゼに、二人は微笑んで快諾すると目を閉じた。
それぞれの片手を可愛らしい手で持ち上げて、掌にリボンを置く。
ユリアの手を掴んだ時、ユリアがひゃわっと声をあげた。
「やわ、や、やわわやわかい…!ありがとうございます!ありがとうございます!」
褒美はそれではないのだが、御礼を繰り返すユリアにマリアローゼは苦笑した。
「もう目を開けて宜しいですよ」
二人が目を開けて、視線を掌に落とすと、昨日マリアローゼが言っていた商品のリボンが置かれていた。
そのモスグリーンのリボンには、光沢のある桃色の糸で、薔薇が刺繍されていて、
更に金糸で「親愛なるカンナ様へ」「親愛なるユリア様へ」とそれぞれ文字が縫い取られている。
「昨日、お嬢様が刺繍されていたのは、このリボンだったのですね」
というルーナの言葉に、カンナがざっと片膝を着いて跪いた。
そのりりしい眼には涙が浮かんでいる。
「有り難く頂戴致します。マリアローゼ様。これは、何より尊い勲章でございます」
「うわああああん、ありがとうございまずヴヴ…マリアローゼ様ぁぁ」
対してユリアはぺたん、と床に崩れ落ちて泣き始めた。
「あ、あら…あの、これは、お二人に対する賞賛と感謝の気持ちですの。お泣きにならないで…」
マリアローゼはあわあわと、二人の前で慌てふためいた。
もっとこう…軽く、ありがとう!笑顔!みたいな反応だと思っていたので、
予想外に重々しく受け取られて、その差に驚いたのだ。
あの素晴らしい対戦に、取るに足らない余り物のリボンを下賜するだけでは敬意を欠くと思い、
手づから刺繍を施したのだ。
気持ちを込めて、二人への普段の感謝も伝わるように。
「ユリアぁぁ、一生の宝物にじまずぅぅぅぅ」
全てに濁点が付いていそうな声で、ユリアはわんわんと泣き続け、終いにはカンナの目からも涙が零れ落ちた。
「分かります、分かりますよユリアさん…」
阿鼻叫喚である。
マリアローゼははわはわと二人を宥めるように、手を動かしているが、何の解決にもならないのを感じて、
二人を慰めるようにそれぞれの頭を優しく撫で始めた。
「お二人とも、マリアローゼ様がお困りですよ」
と見かねてルーナが声をかけると、漸くユリアもぐずぐずと鼻をすすり、大泣きするのを止め、
カンナは静かに涙を拭いて、慰めるマリアローゼに微笑を投げかけたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます