第205話 閉鎖された教会

冒険者ギルドを後にした一行は、教会への道を急いでいた。


「急ぐなら僕が抱っこしようか?」


ジェレイドの申し出に張り合うように、シルヴァインは言葉を被せる。


「抱っこなら俺がしますから」


「抱っこはいりませんわ」


ルーナと手を繋いで、早足で歩きながらマリアローゼはばっさりと断った。

体力を増やす為にも、ここで甘えてはいけないのだ。

神聖街道に出て、教会の方を見れば、人だかりが出来ていた。

入口には神殿騎士の一人である、今日もきっちり73分けのユーグが人の通りを遮るように教会の扉の前で立っている。

マリアローゼ達が近づくと、気付いた人々が道を譲っていく。

そして、ユーグも気がついて、ぺこりと会釈をした。


「ただ今、教会は閉鎖しておりまして、マリアローゼ様には後ほど報告に窺うので、

宿にてお待ち頂きたいとフィデーリス神殿騎士より、伝言を預かっております」


ユーグらしい、真面目でかっちりとした口振りに、マリアローゼはこくん、と頷いた。


「あ、……子供達は大丈夫ですの?」


宿へと向かおうとして、足を止めたマリアローゼが孤児について質問すると、

ユーグはこくりと頷いた。


「勿論、保護しておりますよ。全員王都へ移送して、王都の孤児院で預かるよう手配してあります」

「分かりました。それでは、宿にてお待ち申し上げますわね。伝言、ありがとう存じます」


お礼のお辞儀をすると、マリアローゼは目と鼻の先にある宿へと向かった。

そこまでの混乱は起きていないようだし、教会内部の事は教会で片付けるべき問題なので、

マリアローゼの立ち入る隙もなければ、立ち入る気もなかった。

ただ心配なのは孤児たちの事だ。

以前出会った少年が、まだ教会に留まっているなら問題はないが、

もし公爵家に行ったのなら、弟妹も引き取る必要がある。


「ふむ…」


気持は急くのだが、孤児を受け入れる為の土台もまだ何も出来ていない。

商会の事も薬の販売を先行し、魔道具の販売で資金を得てからの方がいいのだが…

人身売買は孤児達の命に関わる問題でもある。


「難しい顔して、何を考えてるんだい?ローゼ」


宿の前に着いたところで、シルヴァインの声が上から降ってきて、マリアローゼはキッと見上げた。


「お兄様、作戦会議ですわ」


「何だか楽しそうだね。僕も混ざっていいかい?」


「楽しくは無いと思いますけれど…」


今後、領地で展開する活動についての事だけに、ジェレイドには遅かれ早かれ話さねばならない。

マリアローゼは、苦い顔をするシルヴァインと、目が死んでいるユリアを見て、ジェレイドに頷き返した。


「でもその前に、お嬢様には湯浴みして頂きますので、少々お待ち下さい」


間に入ったルーナがぺこりとお辞儀をして、マリアローゼの手を引いて部屋へと歩いて行く。

確かに、町を歩いたので少し汗もかいたし、汚れも洗い流したい、とマリアローゼはルーナに従った。


「……ううん…でも、お風呂に入ったら、わたくし寝てしまいそう…」

「その時は遠慮なくお休みなさいませ。今日はお昼にお休みされていませんし、まだ日は高うございます。

マグノリア様もいらっしゃるのは晩餐前後になるでしょう」


手を繋いで歩きながら、マリアローゼはルーナを眩しそうに眺めた。


こんなに、立派な侍女になって……


親馬鹿目線なのである。

視線に気付いたルーナは、少し恥ずかしげに微笑んだ。


「お嬢様の健康が第一ですので、ジェレイド様とシルヴァイン様もご納得頂けるかと存じます」

「ええ、ルーナ。貴女はもう立派な侍女ですのねえ…素晴らしいですわ」


一瞬目を丸くした後、ルーナは嬉しそうに目を伏せた。


「まだまだ未熟だとは存じますが、そのお言葉はとても嬉しいです」


ルーナの世話でお風呂に入り、冷たい果実水を飲んだマリアローゼは、

ベッドの上で猫のように伸び、宣言通りにすうすうと眠り込んでしまった。

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