第191話 不審者発見

きちんと領地を管理して、領民の世話をしているなんて、素晴らしい領地管理人ですわ…


叔父に対する偏見を改めなければいけないようだった。

ちょっとアレなのは否めないが、職務に対して真面目に取り組む、理性的な人なのだと。


「叔父様、ローゼはジェレイド叔父様を尊敬致しますわ」

「……っつあっ……」


大袈裟な動作で、目の辺りに手を置いて、ジェレイドは天を仰いだ。


「あの……?」


マリアローゼは勿論、その様子に困惑した。

本当に尊敬に値するのに、何だか尊敬していいのか分からなくなる。


「嬉しいよ、マリアローゼ。愛らしいだけでなく、世界一可愛らしいだけでなく、優しいなんて、それに…」


言葉を区切って、ジェレイドはミルリーリウムを見る。


「まさか、王妃教育を受けていたりは?」

「しませんわ」

「王子妃教育という名目では?」

「ありませんわ」

「では領地経営について学んだり?」

「それは考えてませんでしたわ」


矢継ぎ早に質問をして、ミルリーリウムが簡潔に笑顔で答えていく。


「それなのに、こんなに優しくて、可愛い上に、賢い、だと……?」

「普通ですわ。領民の方々に尽くす領主は多いとは言えませんもの。代理だとしても立派な行いですわ。

あと、お母様、差し支えなければ領地経営についてもわたくし、学んでおきたいです」

「ならば!おまかせください!」


ミルリーリウムの返事を待たずに、ジェレイドが割り込んだ。

だが、くすくすと笑ったミルリーリウムが、ジェレイドの申し出に嬉しそうに頷く。


「時間は沢山あるから、領地の隅から隅まで足を運んで、領民達の生活を見せてあげるからね」

「まあ……叔父様、それはとても素敵ですわ」


にこやかに、手をぷにぷにと握りながら、ジェレイドが言った言葉に、マリアローゼは目を輝かせた。

色々な場所に行けるのも、領民達の暮らしを間近に見れるのも、マリアローゼにとってはとても嬉しい事なのだ。


「叔父様、などと他人行儀な呼び方はしなくていいよ。昔のようにレイ、と呼んでくれ。

 僕は君のお馬さんなのだからね」

「……ええと、その件ですが、わたくしはもう淑女ですので、お馬さんは本物にいたしますわ…」

「そうなのかい?」


しょんぼりと捨てられた犬のような目でこちらを見てくるのに罪悪感は沸くが、さりとてこの見た目凄い美青年、の背中に乗る気は全くしない。

悲しそうな素振りで、ミルリーリウムを見るも、母はマリアローゼの意志を尊重して、笑顔のまま首を横に振っていた。


「分かったよ。領地には君に似合う子馬も用意させよう。でもレイと呼んでくれないと嫌だ」


凄い圧を向けながら、ゆっくりと握っていたマリアローゼの手の甲に口付ける。

名前呼びくらいは…尊敬できる一面もあるのだし…と、マリアローゼはこくん、と頷いた。


「レイ叔父様」


「だめ」


即座に首を振られた。

意外と子供っぽいところがある。

ミルリーリウムは可笑しそうに笑っていて、助けてはくれない。


「レイ」


「なんだい!?!?」


呼んだだけで用はないのだが、うーんと考えてマリアローゼは質問する事にした。


「騎士の方達はどちらにお泊りになりますの?」

「君の護衛だから、宿の周囲で野営させるよ。諸々の許可は得ているから安心しておくれ。

あと数日で王都なのだから、数日くらい不眠不休で大丈夫さ」

「駄目ですわ。ちゃんと休ませて差し上げて」

「ああ、何て優しいんだ。彼らは鍛えているから大丈夫だけど、ちゃんと交代で休ませるよ」


父のジェラルドは、氷の公爵と言われるだけあって、冷たそうな美しさなのだが、目の前のジェレイドはにこにこしているのもあって、氷などとは微塵も感じさせない。

変人といえば変人だが、この容姿であれば女性からも引く手数多だろうに。


聞こうか聞くまいか、地雷のような気もして躊躇していたその時、バーンと扉が開け放たれた。


「ユリア、ただ今戻りました!…あっ、誰ですか、この不審者は」


まっすぐジェレイドを見て言う。

シルヴァインは笑いを堪えるように俯き、ミルリーリウムはくすくすと笑う。

マリアローゼはユリアとジェレイドを見比べ、ジェレイドは不審者を探す為にきょろきょろと辺りを見た。

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