第185話 ヌシを仕留めた女
「まあ、最後の最後にユリアさんが間に合うかどうか、ですけど」
「ああいう系統の人間と言うのは、運が物凄く強いんだよな」
呆れた様に言うものの、シルヴァインも湖の方に視線を投げている。
終了間近を知らせる鐘がリンゴンリンゴンと音を響かせていた。
人々も固唾を呑んで、湖面を見詰めている。
「おおっ!」
と誰かの声が上がり、水面が大きく盛り上がった。
そして、銛に貫かれた巨大な魚と、それを背負う夜叉の姿が湖面からゆっくりと岸に上がってくる。
「明らかに、どう見ても優勝だね」
「はぁ…さすがですねぇ」
シルヴァインの言葉に、カンナも感心半ば、呆れ半ばで頷いた。
計量前に、プオォーーと角笛が鳴らされる。
そして、それを皮切りに盛大な拍手と、歓声が上がって…
その音を聞いたマリアローゼが、むにゅむにゅと言いながら目覚めた。
「……あら?ユリアさんが大きなお魚を捕まえましたのね……?」
歓声を聞いて察したマリアローゼが言うのに、ルーナが頷いて、果実水を手に持たせる。
「ありがとう、ルーナ」
「お嬢様がお休みの間に、子供達が来ていたので、クッキーを渡して置きました。
それで、リリアという花売りの娘が、この花束を御礼にと」
小さな花束を見て、ルーナが思ったように、マリアローゼは微笑んだ。
「まあ綺麗、とても素敵な花束ね。お部屋に飾りましょう」
「はい、お嬢様」
結果発表と閉会式が行われ、釣り上げた魚は町の料理人達で焼いて振る舞われる事になった。
優勝は勿論ユリアで、湖の主を追いかけ倒して捕まえたという武勇伝も追加されることになり、シルヴァインはユリアの割り込みで、結局5位になったのだった。
「まあ!すごいわお兄様!本当に5位になられるなんて!」
「ただの運だけどね」
「優勝より難しいですわ!お兄様凄いです」
本当に運なのだが、愛しい妹に絶賛されるのは悪くない気分で、シルヴァインはマリアローゼを抱き上げた。
「じゃあ、ローゼから何かご褒美を貰えるのかな?」
にこやかに甘やかな笑顔を浮かべられて、マリアローゼは少し冷静になる。
こんな笑顔を間近で見たら、普通の女子は死んでしまうかもしれない。
「では撫で撫でして差し上げますわ」
マリアローゼは小さな手で、兄の癖のある金の髪を優しく撫でた。
シルヴァインは嬉しそうに、その手の感触を楽しむように目を閉じた。
「アーーーーアーーーー困りますお客様、優勝者はこのユリアなのでーもうその辺にしてもらえますかねええ」
闖入者に怒りを込めた眼差しを向けるが、シルヴァインの圧にも屈しないユリアは、水着から神官服に着替えなおした姿で、ニコニコと笑顔を浮かべている。
「さっ、早く早く湖デートしましょう、マリアローゼ様」
「あっ、ええ、行きましょう、お兄様」
「はぁ…そうだね」
テンション高い人から低い人へと返事が続き、ボートへと歩みを進める。
シルヴァインの横には、ルーナも日傘を抱えて付いて来ていた。
「シルヴァイン様がそっちで一人で乗って、マリアローゼ様とルーナさんは私の方に…」
と言っていたユリアがピタリと止まる。
舟の近くにスラリとした執事が居て、振り返って微笑みを浮かべていた。
「お嬢様方にクッションをお持ち致しました。マリアローゼ様におかれましてはお疲れの御様子でしたので」
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