第180話 賞品に釣られたお嬢様

「では、マリーちゃんはマリアローゼ様に、町の皆様と生産者のイサクさんからご進呈致しますね」

「皆様、ありがとう存じます」


可愛らしいお辞儀を壇上でするマリアローゼに、人々が声援と拍手を浴びせた。

そこで一旦、ユリアはしゃがんで何事かをマリアローゼと話し合い、また立ち上がる。


それを見て、カンナが一言シルヴァインに伝えた。


「何か嫌な予感、しませんか」

「大いに、する」


マリアローゼは頷いたり首を振ったりする最中、チラチラとシルヴァインを気にする仕草を見せていた。

馬鹿に見せて知能犯、そういうところが叔父上に似て嫌なんだ、とシルヴァインは眉を顰める。


「さて、続きまして、5位」


あれ?減ったんじゃないの?というざわめきをよそに、ユリアは続けた。


「湖畔の情緒溢れる癒しの高級宿、トリエンテの調理人エスタ様より。2名様分のご夕食!」


わー!という歓声と共に、壇上に上がったシェフが、一礼して下がる。

マリアローゼは、マリーちゃんの手綱を握ったまま、エスタを見上げた。


「前回もでしたけれど、お食事とても美味しいですわ」

「公爵家の…しかもマリアローゼ様の御口に合うとは、とても光栄でございます」


などと壇上から降りた二人はにこにこと話している。

ユリアは会話を聞きつつも、話を続けた。


「4位入賞者にはこちら、大商人クルード様より、レスティアの高級宿宿泊と往復馬車券二名分!」


紹介された大商人?のクルードが、壇上で鷹揚に手を振って、シルヴァインにも会釈をし、また壇上から降りてくる。


「これはこれは、フィロソフィ様、いや、ここはマリアローゼ様とお呼びしても?」

「ええ、構いませんわ」

「御目にかかれて光栄で御座います」


ちょっとばかり腰周りはふとましいものの、十分に魅力的な中年男性のクルードがぺこりと会釈をする。

何事かをもっと話しかけてくるのかと思ったが、挨拶だけをして、ユリアの司会に耳を傾けているので、マリアローゼは安心して、隣で草を食べているマリーちゃんの背中をもふもふと撫でた。


「続いて3位入賞者には、こちら、憧れの王都の高級宿宿泊と、往復馬車券二名分!商業ギルドマスロ支部長、エリーゼ様より、ご進呈!」


質素な服に、ショールの女性が、壇上で参加者とシルヴァインへ其々会釈をして、壇上から降りてくる。


「初めまして、御目にかかります。ご紹介に預かりましたエリーゼと申します」

「初めまして、マリアローゼ・フィロソフィでございますわ」


同じく丁寧にお辞儀をしたマリアローゼを見て、エリーゼは目を細めた。

父母と同じくらいか、少し若い印象の女性に、マリアローゼはふわぁ、と驚嘆の息を漏らした。


「女性ですのに、支部長をなさっていらっしゃるとは、大変優秀な御方ですのね」

「お褒めに預かり恐縮でございますが、父の伝手やそちらにいらっしゃるクルード様の後ろ盾もございまして、何とか務めております」


先程話したクルードは、会話には混ざってこないが、にこりと微笑み会釈をした。


「いつか、ゆっくりお話をお聞きしたいですわ」

「いつでも、喜んでお伺い致します」


商業ギルドについてはまだ殆ど勉強していない。

だが、所作や言葉遣い、会話の運びをとっても、平民では無さそうだし、

平民だったとしても傍流の貴族の血筋かもしれない。

金の髪も緑の目も…名前は帝国の名前の響きのように感じる。

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