第141話 二人の少年と二人の聖女

にっこりとした笑みを向けて、マリアローゼはスカートを持ち上げてお辞儀をする。


「失礼致しました。挨拶が遅れましたが、フィロソフィ公爵家末子マリアローゼと申します」


二人に口を挟まれたくなかったので、共通帝国語で挨拶をする。

勉強してたとはいえ、完璧ではない。

だが、挨拶くらいはきちんと出来るくらいは上達していた。


「アーベル伯爵家、グレンツェンと申します」

「リヴァノフ伯爵家、レオニードと申します」


意図を察した二人も、帝国語で返答をしてきた。

胸に手を当てて丁寧に頭を下げる。


「お部屋にどうぞ、先に参られませ」

「失礼致します」


案の定テレーゼとリトリーは言葉が理解出来なかったのか、何も口は出さない。

ぺこりと頭を下げて、グレンツェンは聖女を振り返りもせず歩き去り、

レオニードは少し迷ったものの、ぺこりと頭を下げてグレンツェンの後に続いた。


「申し訳ありません、フィロソフィ嬢」

申し訳なさそうな穏やかな謝罪に、マリアローゼはにっこりと微笑んで頷く。

そして、帝国語を話せないまま疎外された二人の聖女候補に向き直り、微笑んだ。


「さて。テレーゼ様、リトリー様。

 あのお二人をお誘いされたいのでしたら、お父様を通じてあの二人の父君に許可を得てくださいませ」


少年達が部屋へと向かうのを見送り、マリアローゼは聖女たちに向き直ってお願いを始めた。

ある程度の年齢ならば、手紙などで直接誘う事も、友人ならば会った時に次の約束をする事もある。

だが、それ以前はやはり親の許可を取るのが普通である。


通りすがりに、直接連れ去ろうとするのは言語道断だ。

下手をすると、帰りも出待ちされかねない。

それに、親を通して誘ったとしても、100%断られるのは分かっているので、そこも釘を刺しておく。


「断られたとしても、身から出た錆とご承知くださいね。

 殿方を追い回して断られても更にしつこく誘うなど、娼婦、などと言われかねませんわ。

 どうか、これ以上の恥の上塗りはお慎み下さいませ」


なるべく、申し訳なさそうに、困った顔で付け足すと、テレーゼが顔を赤くして怒鳴った。


「しょ…娼婦、ですって?聖女に向かって!」

「ではお聞き致しますけれど、嫌がる殿方に無理矢理言い寄る貴女方のどこが聖女なんですの?

 そんな事を繰り返していたら、酷い噂が立つのは当然ですわ…

 正直に申し上げますと、気持悪い」


「気持悪い」


あまりの言葉に、リトリーが呆然と繰り返した。

テレーゼも思わず無言になる。


「こんな事言いたくはありませんの。でも、この世界で生きていきたいのなら、

 この世界の常識を身につけないと生きてはいけませんのよ」


ゆっくりと噛んで含めるように言う。

どうか伝わって欲しいと思いながら。

二人の事は好きではない、が嫌うほどでもない。

酷いことはされたし、今も行動を改めない二人に呆れもしたが。

マリアローゼは二人の目を交互にしっかりと見詰める。


「どうか、他人から見たらどう思われるのか、考えて行動なさって」


マリアローゼはスカートを摘んでお辞儀をして、二人をそのまま置いて部屋へと戻る。

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