第129話 パーティのお誘い
「あのっ、シルヴァイン様っ、良かったら今夜のパーティでエスコートして頂けませんかっ?」
甘えるような口調で、ウルウルと目を潤ませながら、リトリーが可愛らしく微笑んだ。
可愛い女の子のお誘いではあるのだが、傍から見ると無礼千万である。
先を越されたテレーゼも、髪を直しながらにこにこと笑いかけた。
「いいえ、是非私と一緒にパーティに出てください」
女性からエスコートを親類以外の男性に申し出るのははしたない。
しかも初対面、人前で、である。
一瞬、頭を撫でていた指に力がこもった。
やめて、林檎のようにくしゃっとされたくない。
マリアローゼの背に一瞬戦慄が走った。
ぷるぷると首を振って、兄の手から逃れると、兄への挨拶に立ち上がったままだったヘンリクスが、マリアローゼの目の前に突然跪いた。
「フィロソフィ嬢、両国の平和の為にも、今夜の祝宴には私にエスコートさせて頂けないでしょうか?」
んんん…
兄の怒りのオーラを感じていたが、増しているような気がして見上げると、
穏やかな笑顔が顔に張り付いている。
勿論お怒りだ。
マリアローゼは兄に少し首を振って、ヘンリクスの前に立ち上がった。
「それは良いお考えですわ、殿下。ですが、陛下とわたくしの父にお伺いしなくては決められません」
「お二人の許可があれば、異存はないと?」
期待に胸を膨らませるように、ヘンリクスの表情が明るくなる。
「はい。喜んでお受け致します」
マリアローゼはこくりと頷き、ふわりと微笑を見せた。
ヘンリクスはその笑顔に微笑を返して立ち上がると、ぺこりと深くお辞儀をする。
「一刻も早く陛下に確認致します。本日はご心労をおかけして大変心苦しいが、私は貴女と話が出来て、とても楽しく思いました。では、失礼します。
お二人も部屋に戻って下さい」
最後の一言は二人の聖女に向けて言うと、ヘンリクスはその場を離れて行った。
小間使い達がテーブルの上を片付け始める。
「あのっお返事は…」
「私と出ますよね?」
先ほどヘンリクスが二人の暴挙を止めようと、割って入って話題を流したにも関わらず、である。
とてもしぶとい。
状況も理解していない。
シルヴァインは二人に向けて、穏やかな笑みを崩さないまま伝えた。
「お二人の争いの種にはなりたくないので、今回は遠慮致します」
口調は強めだが、あくまでも穏やかなお断りだったので、マリアローゼはほっと胸を撫で下ろした。
あまり兄に油を注がないで欲しい。
炎上したら困るのは貴女達ですよ……
「えーーーっ折角だから、選んで下さいっ」
「シルヴァイン様と踊りたーい」
マリアローゼの願いはあっさり無下に、砕け散った。
最早、油などではなくガソリンである。
静電気だけで着火してしまう、大爆発の一歩手前だ。
出来るなら、マリアローゼは後ろを振り返らずにこの場から走り去りたかった。
「恥をかきたくないので、遠慮させて頂きたい」
貴族は婉曲的な会話を好むものである。
だからこれは、痛烈な一言と言ってもいいだろう。
マリアローゼは溜息をつきつつ、二人を見るが案の定言葉の意味が分からなくてぽかんとしている。
兄を見上げて、袖を引いてマリアローゼは首を振って見せたが、
シルヴァインの目はマリアローゼを見なかった。
「猿は人間の言葉を解さないし、何を言われても楽しめるでしょう。
笑われるのは、猿を連れている人間の方なんですよ」
分かりやすく、直接的な表現で、あからさまな侮蔑的な言葉を言ってしまった。
というか、言わないと分かってもらえなかったのだ。
シルヴァインの冷たい目と、蔑んだ笑みを初めてマリアローゼは目にして震えた。
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