第107話 少年達の初恋
「俺も、申し訳ない。淑女の前で喧嘩など…」
とモリスも反省の言葉を口にする。
淑女、レディ扱いをされたマリアローゼは上機嫌な笑顔を振りまいた。
完全にチョロインである。
「謝罪は受け取りました。それにお二人とも、お互いの容姿を貶していらっしゃったけど、間違っておりますわ。
雀斑はとても可愛らしくて魅力的ですし、目付きだって切れ長で美しいではありませんの。
お互いの美点をもっと認め合わなくてはいけませんわ」
にっこにこに褒められて、サンクティオとモリスは気の毒な位に顔が赤く染まった。
今まで欠点と罵られ続けた短所を、長所だと褒められて、二人とも言葉も失くしている。
成り行きをハラハラと見守りつつ、嫌な貴族めとサンクティオを睨んでいたカンナすら、今の情けない二人の姿には同情を覚えるほどだった。
「わ、私も、このように肥っていて、見栄えが悪くて…」
「あら、スライムみたいにもちもちしていて、可愛らしいですわ」
ラリアーは二人が褒められているので、悲しかったのか自虐的になるが、マリアローゼはにこにこと褒めた。
微妙な褒め方にも関わらず、ラリアーは嬉しそうに、笑顔を浮かべる。
残る一人は、ウェレークだが、暗い顔で俯いてしまう。
「ウェレーク様も、精悍で素敵なお顔立ちはお父様に似られたのでしょうか?
辺境では魔物との戦いも多くございましょう。
くれぐれもお気をつけてくださいませね」
「あ、ああ…ありがとう…ございます」
頬を染めて、不器用に頭を下げるのを見て、膝に置いてある手をマリアローゼは見詰めた。
「手を見せて頂いてもよろしくて?」
言いながら白くて小さな手で、膝に置いたウェレークの手を裏返して掌を見る。
ウェレークはびくりと震えたが、為すがままになっていた。
その掌には見覚えのあるゴツゴツとした隆起があり、マリアローゼは目を見開いた。
「まあ、もう剣のお稽古をなさっておいでなのですね?」
「え、何故それを」
「手を見れば分かりますわ」
間近で美しく可憐な微笑を見せられたウェレークは、モリスとサンクティオくらいに酷く赤面する。
手を引っ込めたいが、柔らかく包まれていて、逆に動かせずに口をぱくぱくさせていた。
「素晴らしいですわ。やはり、筋肉がある殿方は素敵です」
「「「「筋肉」」」」
全員がその言葉に衝撃を受けたが、マリアローゼはにっこり微笑んで首肯する。
ウルススを連れてきて筋肉美を説明したいところだが、
好みの押しつけは良くないので、心の中に押し止めた。
「わたくしも、領地に戻りました暁には魔法と剣の両方を学ぶ予定ですの」
嬉しそうに頬に両手を当てて、マリアローゼはくねくねと身を捩らせる。
カンナにとっては眼福でこの上なく可愛らしいのだが、淑女と剣が繋がらない4人は首を傾げた。
「そういえば、母君はフォルティス公爵家の御出自ですか」
とモリスが合点がいったかのように頷く。
マリアローゼはその言葉に微笑みながら頷いた。
「そうなのです。よくご存知ですわね」
「王妃様も公爵夫人も剣の名手とお聞きした事があります」
と今度はサンクティオもフォルティス家出身の姉妹を褒め称えて、マリアローゼもまた嬉しそうに頷いた。
「ええ、ですからわたくしもそれに倣おうと思いますの」
にっこりと言われて嬉しそうに頷き返すサンクティオを横目に、ラリアーも身を乗り出した。
「素晴らしいお考えです。私もフィロソフィ嬢を見習って、剣の稽古を始めようと思います」
「まあ、ラリアー様、素敵ですわ」
ぱん、と小さい手を胸の前で打って、嬉しそうな笑顔を浮かべるマリアローゼに
ラリアーは照れながら頭を掻いた。
俺も俺もと言い募るサンクティオとモリスに、マリアローゼはにこにこと賞賛の言葉を与える。
「まあ、将来が楽しみですわね」
そこからは剣の達人でもある元冒険者のカンナに話を振って、
急遽、効率的な鍛え方や冒険の話などで時間は飛ぶように過ぎていった。
気にしていたが、その後サンクティオが文句を言う事はなく、全員が冒険の話に夢中になっている。
あっという間に晩餐の時間になり、ミルリーリウムが部屋に訪れた。
「あら、楽しそうですわね」
社交界の花である公爵夫人に微笑まれて、マリアローゼを囲んでいた少年たちがすっくと立ち上がる。
それぞれ挨拶をして、とても素晴らしい時間を過ごせたと口々に褒め言葉も添えた。
「ふふ。娘のお話し相手をありがとうございました。
あちらでお父様達がお待ちしておりますので、参りましょうか」
母に促されて、振り返りながら4人の少年が部屋を出て行く。
マリアローゼは一人一人に笑顔を送り、その度にスカートを摘んで小さくお辞儀をした。
思ったよりも楽しい時間を過ごせて、マリアローゼはカンナを笑顔で見上げる。
「カンナお姉様のお陰で、とても楽しくて有意義な時間を過ごせましたわ」
「いえ、マリアローゼ様にうまく手綱をとって頂けたからです」
貴族のクソガキと楽しく会話出来る気はしない、とカンナは思い浮かべていた。
それに比べて、自分よりも低位の貴族に思いやりをみせる天使な主人はどうだろうか。
いや天使で女神で…と飛躍しつつある思考に、マリアローゼの声が聞こえる。
「謙遜なさらないで、カンナお姉様のお話面白くて、ローゼは大好きです」
きゅっと抱きつかれて、はわわわとなったカンナは、ぎゅっとマリアローゼを抱きしめた。
「私もお嬢様が大好きです!!!」
微妙な齟齬を感じつつも、無事お茶会を終えられたルーナは、抱き合う二人を優しく眺めていた。
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