第84話 お気に入りのロバ
神聖国の面々は、軽鎧でいかにも警備です、護衛ですという感じの佇まいだ。
ユウトという青年は、名前からして転生者では?という怪しさがあるが、見た目は爽やかな好青年で、
黒髪に暗緑色の瞳をしている。
もう一人はダークスという名前で、こちらも髪は黒、目は焦げ茶色、雰囲気も神殿騎士と言うより暗殺者と言われた方がしっくりくる見た目だ。
「本日は宜しくお願い致します」
お辞儀をするマリアローゼの横で、シルヴァインも丁寧な敬礼をする。
背後のルーナとノクスも敬礼をしたようだ。
それに対して護衛達も礼儀正しく、礼を返す。
「あら?そういえばカンナお姉様は…?」
「急な用事が出来たとかで、合流できたらすると言っていたよ」
きょろきょろとカンナの姿を探すマリアローゼの手を引いて、
シルヴァインは外へと向かった。
そして、アルベルトとテースタもいない。
王族だという事を伏せているため、警護を割くわけにもいかず、警護無しで出歩くには幼すぎるのだろう。
仕方ない、お土産を買っていってあげましょう。
とマリアローゼは心に決め、ふんすっ!と胸を張るとシルヴァインの手を握り返した。
町並みは王都よりもやや古い雰囲気で、街道沿いの店は新しい建物がちらほらとあるが、その他の民家も商家も石造りのどっしりとした構えだ。
「まずは、市場へ行こうか」
「はい、お兄様」
市場は町の中心から少し離れた所にあり、庁舎や塔がある広場で開かれていた。
海から離れている為海産物は無いが、近くの川や湖で獲れたであろう水産物は売られている。
果実も野菜も新鮮そうにつやつやしていて、
マリアローゼは物珍しそうに見詰めてぺちぺちと撫でている。
「お嬢さん、食べてみるかい?」
「いいんですの?」
「今剥いてやるからな」
市場の売り手である若い男は、手馴れた様子で果物を剥き、それをマリアローゼに手渡した。
ぱああ、と笑顔になったマリアローゼは、受け取ってあむあむと食べている。
「甘くて美味しいです!」
絶賛するマリアローゼに満足そうに男が笑った。
味は独特の癖のないマンゴーに似ていた。
「お母様のお土産にします」
「分かったよ」
隣の兄を見上げると、笑顔で商人と交渉を始めた。
「他のも味見させてくれるかい?美味しければ買うからさ」
「じゃあ、皮むきがいらないこの辺と、お勧めの果実は今剥いてやるから」
等とやりとりして、キラキラ目を輝かせるマリアローゼは、
餌を与えられたハムスターの如く色々な果実を味見したのである。
苺に葡萄にラズベリーにブルーベリー、オレンジに林檎に…
味は前世と微妙に違うものの、似た様な見た目と味をしていて、何より新鮮で美味しい。
「ありがとうな!」
「ご馳走様でした」
一杯買ってもらって喜んでいる若い商人に、マリアローゼはお辞儀を返した。
おなか一杯である。
割と沢山の荷物になったが、ノクスはそれを背負い袋に収納して難なく担いでいる。
「まあ可愛い!」
次にマリアローゼが吸い寄せられたのは工芸品の店だった。
本物の兎の毛を使っているのか、柔らかい毛並みの兎の置物がいる。
それぞれ赤いリボンと白いリボンで首元を飾られていた。
手に取ると、それを王妃と母へのお土産にしようと、兄を見上げる。
「他には無い?」
察したように笑顔で聞く兄の言葉に、マリアローゼは再び視線を落とした。
気になるものがそこにいる。
ロバの人形の置物だ。
どれも何だか貧相で申し訳無さそうな顔をしているのが、凄く可愛い。
数えてみると、15匹いる。
「これ全部」
「えっ?」
驚くのも仕方が無いが、値段はとても安い。
一般的には可愛くないのかもしれないが、マリアローゼの目にはとても可愛く映るのである。
「お兄様達にもあげますの」
「わかった」
驚いたもののすぐに愉快そうな顔になって、シルヴァインが店番の老婆と価格の交渉を始める。
ニコニコと応じながら、老婆は背後の棚から布で作った小花を出してきた。
「値段はもうまけられないけど、これをお嬢さんにあげよう」
素朴で可愛らしい花を見て、マリアローゼは目を輝かせた。
「とても綺麗です!おばあさま」
「そうかいそうかい。帽子に飾っても可愛いよ」
スッと隣に現れたルーナが、老婆の手から小花を受け取ると、早速マリアローゼの帽子にピンで留める。
「可愛いね」
それを見たシルヴァインに褒められて、マリアローゼは頬を染めてニコニコした。
「これはおばあさまが作ったの?」
「わたしはもう目も指も悪いからね、嫁と娘が針子の仕事の余り布で作ってるのさ」
確かに布は同じ色の物だが、様々な材質の布が使われていた。
それが逆に素朴さを感じさせて、とても可愛らしい。
「また買いにきます」
「待ってるよ。ああ、そうだ。あの通りに娘達が卸している服屋があるから見ていくといいよ。
喜んでくれたお嬢さんがいたって娘達にも言っておくからねえ」
「はい」
マリアローゼは嬉しそうに大きくこくん、と頷くと、老婆が指差した通りの方へと身体を向けた。
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