2023年5月30日

倒れている少女に尋ねた。


どうして、君はそこにいるのか、と。


少女は答えない。


答え方を知らないようだ。


どうして、君はそこにいるのか、と、もう一度尋ねた。


やはり少女は答えない。


僕は彼女の背中に腕を回し、立ち上がらせようとする。


少女が鈍い声を出す。


痛いのかもしれない。


呻き。


しかし、彼女の息は絶えようとしない。


死なない。


それは、なぜか?


簡単なことだ。


死ねないから。


まだ、そのときではないから。


腹部に刺さった枝に手をかける。


呻き声。


先ほどよりも明らかな。


涙。


血。


どちらも、僕のものではない。


しかし、それを僕のものにしたいという衝動に駆られる。


理解不可能と思われるだろう。


あるいは、理解可能と思われるだろうか。


どちらでも良い。


僕がしたいようにすれば良い。


少女は鳴き声を上げたが、僕は一向に構わなかった。


だって、彼女は死なないのだ。


それで良いではないか。


ただ、少しの間、痛いだけだ。


枝を引き抜いてしまっても、血液はそれ以上出てこなかった。


もう、出きってしまったからだろう。


少女はその場に頽れ、僕の方へと凭れかかってくる。


浅い息。


綺麗、と感じる。


まだ、生きているのだ。


充分ではないか。

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