第78話『後4日、フットサル大会Ⅰ』

「やってきました試合会場!」


 我らのスマイル担当サリがフットサル場と書かれた看板を指さしポーズを決める。

 カラオケからラーメン屋コースの寄り道パートワンをやってからの翌日の放課後。

 俺たち洞窟探検フットサル不思議研究会は、学園最寄り駅から三つ離れた駅のそばにあるフットサル場へとやってきた。


「じゃじゃーん、みんなお揃いのジャージを用意してみました。スポンサーはケンジッチなので、後てお礼を言っておいてね」

「アレを使ったのか」

「そうだ悪魔王討伐の報奨金だ、お前が受け取らないからメンバー全員に必要が出来た時のみ使用している。このくらいでは減った気がしない」

「だろうな」


 そう、記憶が戻った俺にケンジが悪魔王の討伐金を渡したいと言ってきた。数万円なら受け取ったかもしれないけど、金額の単位がオクと聞いて辞退、単位が怖すぎる。そんな見たこともない大金なんか手にしたら、自堕落で嫌な人間になりそうだ。

 お金は部活動などの活動費にすることに決めた。とても学園在学中に使え切れる額じゃないけど、そう決めた。残りは卒業してから考えよう。


 サリが買ってきてくれたジャージに着替えてフットサルのグラウンドに、今回俺たちが参加するフットサルの大会は、グラウンドを四面持っているレンタル競技場主催の大会。参加チームは俺たちを含めて十二チーム。


「大会への参加、ありがとうございます。大会のルールを説明させていただきます」


 バイトだろう。大学生くらいのお兄さんが拡声器を片手に手元の資料を読み上げる。


「今回の参加チームは十二チームですので、それを三チームずつの四グループに分けて、総当たり戦をやってもらいます」


 三チームの総当たりだから二試合だな。


「各グループの成績上位一チームが決勝トーナメントに進みます。今回は男女混成チームが多く参加しています。女性プレイヤーが得点した場合は一点ゴールを三点とします。フェアプレイを心がけてください、それでは各チーム優勝目指して頑張ってください」


 読み上げながらだから棒読みなのはわかるけど、せめて最後の一言くらいは感情込めた方がよくないかな、それで気合入る人はいないだろ。


「よし、優勝目指して頑張るぞ!」


 ここに一人いました。


「さぁ、私たちも移動しよう」


 サリを先頭に指定されたグラウンドに移動、優勝を目指すには、ここでやる二戦で勝てばいいんだな。対戦するチームは男性五人女性一人の大学生チームと男子五人の高校生チームだ。


 大学生チームは遊びで参加した雰囲気でリラックスしているけど、同い年くらいの高校生チームは、男女混成の俺たちを見て刺々しいオーラを発しながら睨んでくる。格好もお揃いのユニフォームを着ていることから部活の仲間で参加したようだ。


「たぶんだけど、女子と一緒に参加しようとして断られたんじゃないかな」

「それでこっちを睨んでるのか」


 気持ちはわかるぞ、特技を女子に披露してアピールしたかったんだろ。それがアピールする前に断れた。悲しいよな、俺も異世界に召喚されていなかったら、間違いなくあいつらの仲間だったから。


「おい、同情の視線を送ってくるな、試合では女の前で恥をかかせてやるからな」


 すまん、つい、でも気持ちはわかるのはホントなんだぞ。


「かならずコールドにしてやる」


 フットサルにコールドは無かったはずだぞ、いかん、さらに怒らせてしまった。


「やるねサトッチ、試合前から相手に冷静さを無くさせるなんて高等テクニックだよ」


 俺は何もしていないぞ。

 予選の総当たり戦の組み合わせ表がホワイトボードに書きだされた。


 丸筏大学テニスサークル。

 四殻高校サッカー部。

 洞窟探検フットサル不思議研究部。


 わかっていたけど、俺たちの名前だけめちゃくちゃ浮いてるなー。


「名前までふざけやがって」


 ふざけているのは名前だけです。否定しても通用しないでしょうけど。

 初戦の相手は大学のテニスサークルか、種目のジャンルが違いすぎるけど。


「経験者が二人いるね。高校の時はサッカー部だったんじゃないかな」


 試合前の軽いアップ練習をチラリと見ただけでサリはそう判断した。


「わかるモノなんだ」

「慣れればだいたいわかるよ、運動系のサークルだから経験はなくてもスタミナはあるだろうから油断なく行こう」


 レベルを10まで落とすリストバンドを付けて試合開始。

 こっちの最初のスタートメンバーは、俺、サリ、タンガ、レンサク、ホカゲの五人。


「最初から女子を二人も入れてくるなんて、遊びでも真面目にやって欲しいね」

「いや、ベストメンバーじゃないことは認めますけど、こっちは大真面目です」


 真面目にやっているのは本当のこと、本気のメンバーにするならレンサクか俺をヒカリと交代して女子率をさらに上げた方が強くなる。


 大学生ボールからスタートしたけど、足音なく忍びよったホカゲがボールをつま先で軽く蹴って横に転がす。


「はい?」


 ボールを蹴られてから気が付く大学生。

 それを拾ったサリがそのままシュート、グラウンドの半分を飛びゴールネットを揺らした。

 女性が決めたので俺たちは一気に三点を獲得した。


「だから言ったでしょ大真面目な人選なんです」


 女性ワンゴール三点はサリだけは除外した方がいいんじゃないかな、相手が可哀想になってくる。レベルを10にまで落としても。


「はいサリ」

「ナイスアシストだよホカッチ」


 ホカゲのブロックを察知できずにまたボールを奪われる大学生、そのままサリにパスして、今度はドリブル突破、三人を抜き去りゴールに優しく入れた。


 いくら遊びでも高校生に負けたままではいられないと、二人が体を使ってサリとホカゲの動きをガード、キーパー以外の残った二人の経験者が攻めてきた。


「たまには僕も体を動かすのです」


 止めにいったレンサクが簡単に交わされてシュートを撃たれたが。


「よっと」


 キーパーのタンガが飛んでくるシュートをワンハンドキャッチした。


「……嘘だろ」

「こいつら、こんな小さな大会に出るレベルじゃないだろ」


 レベル10ならちょっと強い一般人レベルのはずなんだけど、命がけの戦闘経験があるからか、年上の大学生相手でも萎縮しない、どんなに強いボールを蹴られてもファイヤボールより怖くないので、落ち着いたメンタルで試合ができているのが大きいかもな。


 途中でサリを下げケンジと入れ替えることで、試合らしい形となり、初戦は12対0で決着した。内訳はサリ三ゴール、ホカゲ一ゴールだから、本当なら4対0なんだけど大会ルールでとんでもない点差になってしまった。なんかゴメンと謝りたい気分。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る