二人
笹本景
ある離れた国と国で、文通をする二人があった。
一度も会ったこともなければ、これから会えるかもわからない。
しかし、間違いなく互いが互いを愛していた。
──手紙を出してから、かなりの時間を空けて、それでも必ず返ってくる相手からの手紙はいつも遠い異国の匂いを纏っていて、そわそわするような落ち着かないその香りがいつしか二人の中では安らぎの象徴となっていった。
そんなある日、返事の手紙を出すより先に、相手からまた手紙が届いた。
連続して送ってくるなんて初めてだ、と不思議に思いながらも、多少浮き足立って封を切った。
いつもの匂いを孕んだいつもの便箋の中に書かれていたのは、知らない誰かの知らない字体で綴られた
愛する人の死を報せる堅苦しい文章だった。
少年は立ち尽くし、ただ立ち尽くし、
そして立ち尽くした。
どのくらいの間そうしていただろうか。
見てるものが、永遠に立ち尽くして生涯を終えるのではないかと本気で心配になり出す頃、ようやく少年は動き出した。亡霊のような足取りではあったが。
少年は今までもらった手紙を一通も漏らさず仕舞っていた木箱を持ってくると、迷うことなくそれをひっくり返した。
相当の紙の質量が、重力のままにダアッと音を立てて床に吐き出された。
少年は散らばった大量の手紙の上に身体を投げ出すと、葬式に行けるような口実も、思い出す思い出もないので、今まで交わした文章を、愛する人の筆跡を、今までの全てを何度も指でなぞることしかできなかった。
二人は恋人、という口約束すらなく、ただただ深い気持ちだけで繋がっていた。少年はその時初めて、形を持たず他者には見えないものがこの世界であまりに尊く、どれだけ無力か痛感したのだった。
二人 笹本景 @sasamoto
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