第17話 バイト初日


アルバイト初日って、変な気分になるよね。

初めてだからドキドキするし、しっかりできるか心配な気持ちがかなり強くなる。


元々心配症な性格も相まって、何かやる時は必ず緊張してしまうのだ。


それでも、結局はしなければならないことなのでうまくいくことを祈るしかない。


同い年って言ってたけど、優しい人だったらいいなぁ……。

と願いながらバイト先へ向かう。




早朝5時50分。

業務開始10分前に着いた。


前の職業柄、時間に関してはかなり気を使うようになっていて、自然と少なくとも5分前までに着くように、体が動いているのかもしれない。


そこばかりは感謝かな。


「おはようございます!お疲れ様です…。」

挨拶をしながら、深夜帯の方達に会釈をした。


お互い「初めまして〜〇〇です〜」と自己紹介をした後、事務室でユニフォームに着替えて

出勤登録をして、レジまで出る。


すると


「お疲れ様で〜す。」


と女性の声が聞こえてきた。


お。今日の相方が来店なされたぞ。

お願い!いい人でありますように!

優しくてめっちゃいい人で!


顔は普通に、心は手を合わせて必死に願い、

彼女の登場を待った。


「……あ、おはようございます〜。

今日は━━━━あれ?」


「……あれ?」


そして彼女は俺の顔を見るなり、挨拶しようとして、固まった。

それに呼応するように、俺も固まらざるを得なかった。


だって、


「……もしかして、佑《たすく》?」


「……お、おぉ。久しぶりじゃん。

カレン…さん?」


幼稚園、小、中で仲の良かった女友達だったのだから。



「お疲れ様でしたー!」


深夜帯の方たちと勤務交代をして、俺ら色々と教えてもらいながら、久々の会話をする。


彼女は鳥椿とりつばきカレン。

幼稚園から、小、中と同じ学校に通い、高校で別々になるまで、ずっと同じクラスだった俺の女友達だ。


「てか、帰って来てたんだな。カレンさん。」


「まぁね。大学通う間は実家にお世話になろうかなって。

てか、『さん』付けしなくていいよ。私たちの仲じゃん?

私、なんだか寂しいぞ?」


「あ、あぁ。ごめん。

あまりにも久々過ぎてさ。」


だが、俺が緊張しているのは会うのが久々だから。だけが理由ではない。

 

色々と、カレンが女性っぽくなっているのだ。


よく久しぶりに会った女友達が、昔は男みたいだったのにしばらく見ない間に

可愛くなった。とか、別人に見えた。

とかそんな感じだ。


その現象が、今俺の目の前で起きている。

元々肩口までしかなかった髪は背中まで伸びて、なんかキラキラしてるし

薄くメイクもしてるようで、素直にきれいだと呟いてしまいそうになる。

唯一変わらないのは身長だけだ。


「・・・?

本当にどうしたの?」


「・・・あ、や、なんでもない。

ちょっとこれがわかんなかっただけ。」


「あぁ。それはね━━━」


本当は分かっているけれど、話を誤魔化すことにした。



それからしばらくレジをして、たまにわからない所を教えて貰いながらどうにか業務をこなしていく。


すると


「これ、お願いします。」


「いらっしゃいませ!」


眼鏡をかけた20代くらいの男性が商品を持ってきた。

俺はそれのバーコードを読み取り、終わった商品をカレンが袋に詰める。


・・・お。Vtuberウエハース買うんだ。


その中にはいくつかVtuber関連のお菓子があって、この人は相当Vtuberが好きだと見受けられる。


そっかぁ。この人も誰かのリスナーで、コメントしたりしてるんだろうな。


当たり前だが、改めてそう考えると面白い。


「「ありがとうございましたー!

またお越しくださいませー。」」


お客様がいなくなり、また暇な時間ができる。


そうなると、カレンは沈黙を破るようにまた話しかけてきた。


「……そういえば、さ。

佑ってVtuberとか見るの?」


「うーん。まぁ、見てるっちゃ見てるな。

でも今のところ2人くらいしか興味ないかな。


あまり多くても追いきれなくなるし。」


「…ふーん。

…私はね、結構見てるよ。」


「え?!そうなんだ!」


少し意外だった。

それこそカレンは昔、アニメとかを毛嫌いしていたのだ。


俺がこの子可愛い!って見せるたびに

「私の方が可愛いもんっ!」

とぷりぷり怒っていた記憶がある。


懐かしいなぁ…。


そんなカレンがVtuberを見てるっていう日が来るなんて。


「ちなみにどんな人を見てるんだ?」


「あー……。


………イキシア恋華ちゃん、、って子かな。」


お、知ってるVtuberだ。


「あー!その子の切り抜き動画見たわ。」


何気なく、そう言った途端


「え?!ほんとに?見たの?!」


店中に響かんばかりの声を出した。

その後、ハッとしたように口を押さえて頬を赤らめた後、

「……その子のこと知ってるんだね……」

と改めて小声で言ってきた。


「ど、どうだった・・・?」


「え?

そりゃあ、、リスナーに振り回されてるところは面白かったけど。

普通に声とかもかわいかったし。」


「へ、へー。

私もそう思うな〜。」


やけに嬉しそうだな。

まぁ、自分の好きなVtuberを他人も好きだったら嬉しいよな。


「ま、配信は見れてないんだけどな。

今んとこ推しは二人だけでいいかなって。」


「・・・。」


あれ。どうして急に残念そうな顔をするんだ?


「そっか。切り抜き動画を見たって言ってたね・・・。

じゃあさ、配信もいつか見にきてよ。すごくおすすめだからさ。」


「?

あぁ。カレンがいうなら配信も見てみるよ。」


「うん。」


それにしても、やけに押してくるな。

相当イキシアさんのことを推しているらしい。

なんか親近感湧くな!
























  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る