第11話
「決めたよ、俺は。
だけど、その前に、
一つお願いがあるんだ、煌。
最後に、一曲だけ、今日の夜、
歌を聞いて貰いたいんだ、煌に。」
そう言って、伊吹は煌の反応を待ったが、煌は微動だにしなかった。
たしかに、そんな状況でも無いだろう事位は、伊吹も理解はしていた。
だが、考えよりも想いが先に言葉となり、出てしまったのだ。
待てども、煌は反応しなかった。
「悪い、何でも無い。ただ、今日の夜までは待って欲しい。
どうしても、受け止めるだけの時間が欲しいんだ。」伊吹の言葉に、
「分かった。」とだけ返す煌。
まるで、人形の様だった。
伊吹は、一人、森の中へ向かった。
宛など無いが、ただうろうろと歩いて、気持ちを落ち着かせたかったのだ。
現実の世界。
何故かはわからないが、自分がその世界に戻る事を願うと、
現実世界は救われるらしい。
理由が全く分からないまま、ただ納得して行かなければならない、事実とされる
それらの情報。伊吹は、皆目見当もつかない域の事実達を前に、
考える気力を失っていた。
感じるままに。
そうする事しか、伊吹には出来なかった。
煌の願い通りに、動いてあげたいと思った。だから、
一つだけの願いを使って、現実世界に戻る。
例え、煌が人間では無く、ただのプログラムとして存在するだけの物
だったとしても、
実物の無い、データに過ぎないとしても、
それでも、煌を信じてみようと思った。そして、それでも、
伊吹は煌に歌を歌いたい、と思ったのだ。
それで良い、と伊吹は思ったのだ。
よし、曲、作ってみよう。
伊吹は、想いを馳せ回り、
その夜には、曲は完成した。
煌の元へ向かう、伊吹。
しかし、煌は居なかった。
煌、煌と、
名前を呼んでも、煌が現れる事は無かった。
最後に、最後の挨拶位と、
言葉を叫んでも、煌はもう現れ無かった。
「何だよ、冷たい奴だな煌は!
プログラムだからって、良い気になるなよな!
俺は優しい奴だ!プログラムだからって関係無い!
とっておきの曲を聴かせてやるよ!
良く、書き込んどけよ!俺の歌を!」
優しい、バラードを一曲、伊吹は、
森中に聞こえる様に頑張って、声を張り上げて唄った。
声が枯れてもなお、唄った。
曲は終わり、奴が現れた。
「やあ、伊吹!
良い曲だったよ!
それでは、次は、
君の願いを聞かせてもらおうか?」
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