第10話 どんなに暗くても
黒い世界が、世界一円に映像を映し出す。
そこには、伊吹の知らない世界が存在した。
ある方向には、荒廃した広い大地に、幾つもの穴が空いている姿が映し出され、
ある方向には、大きな建物から、また大きな黒煙が立ち上っている。
映像は、どうやら、その世界をやや上空から映し出している様な構図になっており、
伊吹の足元には、黒く丸型の巨大なドームが存在していた。そのドームは、不自然に存在する一つの大きな穴から、ドームの中を晒しながら、君臨していた。
これが、現実世界?
伊吹は、全くの実感が湧かないまま、流れる映像を見続けていた。
そんな伊吹に、煌は説明を始める。
「これが、現実世界だ。君の体験していた世界は、こいつら特研が作った、ただのシミュレーションだ。君は、こいつら特研によって培養されている、人間という【モルモット】だ。」
煌の言い切るその事実に、どう対応すれば良いのか、伊吹には分からなかった。
「モルモット?」
「そう。特研は日本を、海外へ売買する為のミニチュアセットとしか考えていない。
だから、全国民を殺戮し、その代わりに配置される人工国民によって、演出される【善良な国民】の住まう街、地区、国を作り上げる。そして、そこに君の様な、何も考えずに生きる、欲の無いモルモットが少し居れば、安全で且つリアリティを以て楽しめるミニチュアセットが完成する。
日本は、商品でしか無い、と、こいつら特研は思っている。」
煌は言いながら、異物の者である管理者を睨んだ。
管理者は答えた。
「語弊がある。日本を商品と捉えている訳では無い。
この日本で今実施されている、真の平和な世界の構築方法、そのロールモデルを
世界中に展開する必要がある為、だ。日本が手っ取り早かったから、ただそれだけの理由だよ、今の日本がこうなってるのは。」
煌は、管理者に言い寄り叫んだ。
「その傲慢さで!何千万人も殺して!それが平和?ふざけるな!」
管理者は、さらりと言い返した。
「これから数百年も、人の過ちで落とされ続ける命の数と比べれば、
賞賛されるべき程だと、【世界保全機構も公認、賞賛】しております。」
流石の煌も、その事実にはたじろいだ。
伊吹も、キーワードを聞いて、何と無くの内容は分かっていた。
「何、それ、」
蚊の鳴くような、煌の声。
「世界は、
あなた方、
あ、な、た方に、
犠牲になって貰いたい!そう言ったんですよ!」
管理者は意気揚々と、堂々と言い切った。
「煌、でも貴方の努力は、
きっと報われる日が来ると思いますよ。では。」
管理者はそれだけ告げると、
黒い世界と共にフェードアウトした。
微塵も動かない煌。
伊吹は、告げられた事実を、伊吹なりに一つずつ、受け止めようとしていた。
このユートピア、
昔居た世界、
そして現実世界、
そしてその有り様。
打ちひしがれている煌。
そんな煌と過ごした日々。
過去の自分。
自分に残された、願いを叶える権利。
煌の想い。
時間が止まっているかの様に、変化の無い時間を過ごす二人。
あとどれくらい過ごせるかも分からない、
二人の時間は、ただただ過ぎた。
口を開いたのは、伊吹だった。
「決めたよ、俺は。
だけど、その前に、
一つお願いがあるんだ、煌。
最後に、一曲だけ、今日の夜、
歌を聞いて貰いたいんだ、煌に。」
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