#26 絶対的強者

「!この気配…アグノラ、界域顕現を使ったか」

「界域顕現やと?なんや、あんたら使えるんか」

「当然だろう?陛下を守護する親衛隊がその程度のもの、使えなくてどうするというのだ」


界域顕現。精神世界を現実世界に投射して、それを空間として相手を引き摺り込む技。界域内では顕現したもののルールが最重要とされ、それを引き摺り込んだものに強制すると言う戦闘技術における極致と言えるものだ。


「じゃあアンタも使えるんか。”界域顕現“」

「無論だ。と言っても、第一段階しか使えんがな」

「第一段階使えたら十分やろ。第二段階は使えるやつの方が少ないわ」


界域顕現には二種類あり、それぞれ効果は異なる。一つ目は『天界』。この界域を持つものは顕現した界域内では常に治癒し続け、自身のことを強化すると言ったもの。二つ目は『魔界』で顕現したと同時に相手に“呪い”をかけると言ったものだ。この“呪い”はさまざまな種類があり、能力使用不可、身体能力低下、魔力使用不可、回復無効など、相手にさまざまな効果を付与することができる


「この雰囲気は魔界やな。まぁ2人ならなんとかなるやろ」

「余裕そうだな。恐怖を誤魔化すための演技か、はたまた本当に俺より強いのか…俺自ら力量を測って判断してやる」

「そんな余裕もないで?アンタはワイに手も足も出んのやから」


そう相手のことを煽ると


「抜かせ!」


と言って突撃してくる。だが挑発に乗ったとはいえさすがは“十天守護者オクトヘヴンス”。こちら側のカウンターの余地がありそうな動きではなかった。


「感情的になっとるのに、内面は随分と冷静なんやね」

「それが優秀な上官というもの…だ!」


剣を防いだ時の一瞬の隙に、相手の力を込めた衝撃によって吹っ飛んでしまう


「『岩石剛飛ガイアショット!」


目の前から岩の塊が飛んでくるのが見え、ワイはそれを捉えた


「無駄やな。追撃なら近づいてしてこんかい」


その飛んできた岩を砕き、そして掴んで


「返すで」


ワイはそれを相手へと投げ返した


「残念だ。ブラフとも見抜けないとはな」

「残念なんはこっちの方や。いつまでワイを見とるんや?」

「何が言いた───!!『地起剛壁』!」

「おっとと、随分と危ないことしてくれるやんか」


一瞬のうちに後ろに回り込んだのだが、大地が隆起してきて攻撃を阻む。あの能力厄介やな。


「結構めんどいな。その大地を操る能力言うやつ。好きに攻撃もできひんわ」

「これは能力ではないぞ。」

「はぁ?能力ちゃうんならなんなんやそれ?適正属性がそれってわけでもないやろうし…ああ、というか属性魔法なら魔法陣があるか。なおのこと謎が増してくな。一体なんなんやその力?」

「さぁな。自分で考えてみたらどうだ?『天地剛剣アースブレイド』!」


あくまで教える気はないってことなんか。まぁええわ。その力の秘密しらんでも、強いのはワイの方やしな。だと言っても、舐めてかかるのはやめとかんとな


「生憎ワイ馬鹿なんや。自分で考えるん苦手やから教えてくれん?」

「避けながら問答とは随分と余裕だな!『天地剛剣アースブレイド』!」

「馬鹿の一つ覚えみたいにそれしか打ってこんなぁ。」


天地剛剣アースブレイド』。これは隆起させる大地が鋭利になるというもの。魔法と言うよりは、大地そのものを地面から引っ張り出しているような感じだ。


「難しく考えても仕方ないな。全部砕きながら行けば結果オーライやしな。」

「舐めるな!『大地振動グラウンドトレンブル』!」


その詠唱と共に、大地が揺らぎ始めた。


「狡いことするやつやなぁ…」

「そのすました顔、崩してやる!『大地共振グラウンドレゾナンス』!」


さっき感じた揺れが、さらに大きくなり、立つこともままならなくなってくる


(この感じ…ワイの下の地面だけっぽいな。ならやることはひとつや)


そしては不安定になった足場から踏み込み、相手へと急速に近づく


「なっ…!」

「異形の素の力、あんまり舐めんほうがええで?」


ドゴォッ!という音と共に、相手が吹き飛び近くにあった岩に体を打ち付けた


「がふっ…!?」

「随分と勢いよくめり込んだなぁ。芸術的な作品でも出来上がるんやないか?」

「貴様…!」


相手を挑発する言葉を送ると、相手はそれに反応する。


「分かった。貴様は俺の全力を持って始末してやる!」


そう言うと相手の感じが変わり、殺気が凄いことになっていた


「おぉ、この力の波動…!使うんやな。アレ!」

「界域顕現!魔界『不朽土城』!」


荒れ果てたひとつの荒野に一つだけ、砂、土、岩で構成された城が目立ってあった。


「俺が…!俺こそが強者だ!絶対的な力を持つ!それが俺だ!俺が…絶対的強者だ!裁きを受けるがいい!『大地共鳴グラウンドリゾナンス』!」

「こりゃ、ちょっとは楽しめそうやな…!」


そうして界域内での戦闘が始まった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ゼオは完全に冷静さを欠いていた。その弊害に、さっきから相手が読みやすい単調な攻撃しか行っていない。それと同時に、ゼオは焦りを感じ始めていた。


「クソがァ!死ねェ!」

「無駄や言っとるやろ。いくらしてきても、アンタの大地の剣は脆すぎる。こんなん闘気込めんでも素手で壊せるで?」


目の前の男、ソルグロスは、尽く、ゼオの攻撃を1つずつ無力化していった。『大地剛飛ガイアショット』は手で砕き、掴み、投げ返し。『天地大剣グラウンドブレイド』も素手で砕く。頼みの綱である『偉大なる御手ガイアハンズ』も、おそらく通用はしないだろう。


「ふざけるな!さっきよりも硬いはずだぞ!?なのに何故貴様は素手で砕き、掴み、投げ返す!理解出来ん!」

「理解出来んはアンタん頭が足らんけやろ。そろそろええか?飽きて来たんやけど。」

「バカを言うな!まだ最大出力では───!」

「ならさっさと出さんかい」

「ぐうっ…!」


そう言って、ソルグロスはゼオを吹き飛ばす。だが殴られた箇所の傷は即効で再生し、なかったことのようにゼオは立ち上がった


「クソが…!偉大なる大地よ!我に力を貸し給え!」

「んん、これは…」


そのゼオの口上と共に、空中に巨大な岩の塊が出来ていた。周囲を見渡すと、いつの間にか、自分の周りの岩が全て無くなって、砂だけとなっていた。


「偉大なる大地に裁かれ、滅びるがいい!『巨岩太陽ソレイユロック』!」


その詠唱が終わった瞬間、その巨大な岩は、ソルグロス目掛けてゆっくりと飛んできた


「ええなぁ…!やればできるやんけ!避けるのは簡単やが…!ワイは真正面から砕いたる!」


そう言ってソルグロスは馬鹿正直に真正面から、その巨岩を砕こうとした。そして到達し、全力で殴る。


「バカにするのも大概にしろ!その岩は俺の魔力も帯びている!貴様1人では砕くどころか止めることすら出来ず死ぬ!終わりだ!」


そうは言っているが、ソルグロスの様子は全く焦っていないように見え、それどころか余裕を感じ、砕く様を楽しんでいるように見えた。そして岩の方から、ミシッ…と、ひび割れる音が聞こえ


「残念やったなNO.8!ワイの勝ちや!」


その一言で、大地の太陽は砕け散った。


「馬鹿な…馬鹿な…!一体何者だと言うのだ!貴様ァ!」

「言わんかったかいな?まあ、改めて教えといたるわ。ワイは仮名───『ソルグロス・フュズィーク』。『異形衆』のNo.3や。覚えといてな。」


そう言うと、ソルグロスは構えを取り、


「ワイがアンタらで言う”絶対的強者”や。その貫禄見せたるで。もう少し、楽しませてくれんか?アンタの全力を見た上で、アンタの微かな希望へし折ったるわ。」

「言わせておけば…!ならばいいだろう!俺の至高の技を見せてやる!」


そしてゼオは距離を取り、詠唱を始める


「”不羈なる大地”よ!暫しその御力、拝借させて頂こう!無数の瓦礫と空気の超振動を、その身に浴びて跡形もなく消え去るがいい!」


ゼオは突きの構えをとり、力を集約させる


「『大地讃頌』!」


ゼオの至高の技『大地讃頌』。十天権『不羈なる大地』とゼオ自身の能力『振動ヴィブラーション』をフルに活用し、”不羈なる大地”によって浮上させた岩石を、振動波と共に高速で飛ばす。その威力は闘気による防御が無意味となる貫通効果を有しており、空気中の振動は音による爆音の攻撃となり、音と物理の両面を兼ね備えた至高の技。食らった対象は爆音で鼓膜が潰れ、飛んできた瓦礫により身体も原型を留めないほど潰される───はずだった。


「あえて喰らってみたんやが…それとんでもないな。音で怯ませて瓦礫による物理攻撃…流石のワイも応えたわ。ほんとに強いやつではあったんやな。アンタ。今までの発言、半分くらいは撤回させてくれ。アンタ強いわ。」

「なんなんだ…なぜ形が保てている…!化け物が…化け物がァァァァ!」


ゼオは恐怖した。当たり前だ。自分の至高の技を食らっておいて、数箇所のキズのみで済んで、依然として立っている者が目の前にいるのだから。


「それがアンタの最高火力か…しゃーない、今度はワイの番やな。」


ニィっと、ソルグロスは怪しげな笑いを浮かべ


「見せたるわ。ワイがなんで、”絶対的強者”なんかを。越えられない壁があることを、そして、アンタがいかに愚者であるかを──────界域顕現。」


そうして、メイプル達がアグノラの界域顕現を攻略している裏側で、”絶対的強者”による、弱者の蹂躙ショーが幕を開けようとしていたのだった。

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