#25 狂った曲芸

ここからの戦いは本当に苛烈だった。ぶっつけ本番のコンビネーションだが、なんとか、相手を翻弄することに成功していた


「ああ、もう!めんどくさいなぁ!『流水斬舞』!」

「『滑走棘スワイプスパイク』」

「『溶酸膜ゾイレフィルム』」


ヘインは棘の横の滑らかな面を使って受け流しを、私は自身の手から生成した硫酸で身を守った


「そっちももどかしいでしょ!僕に攻撃当たらないから!」

「どうだと思う。それはお互い様だろう?」

「こんの…!本気で怒ったからな。もう君たちは、僕に触れることさえ叶わないよ。」


雰囲気が変わった。さっきとはまるで違う。子供が発していい気迫ではない。この時点で、認識を改めなければいけない


「そうだね。感情的になりすぎた。僕本来の闘い方を忘れるところだったよ。さぁ、準備はできた?楽しい楽しいお遊戯の始まりだよ!」


その口上と共に、あたり一体が何かに呑まれ、別の空間が作り上げられていた


「魔界『麻姑搔痒狂劇場まこそうようきょうげきじょう』」

「なんだこの異様な空間…能力でもない、魔法でもない、闘気でもない…一体、何をしやがったんだ?」


空間がガラリと変わった。その空間は、サーカス劇場のような、そんな感じだった。


「この力の名前は『界域顕現』。限られた強者にしか使えない究極の力。自身の精神世界を現実に投影して、それを空間として相手を引き摺り込む技だよ。」

「この空間内に連れ込んだところで何ができるんだ。」

「さっき言っただろ?楽しい楽しい遊戯サーカスの始まりだって。キミたちは今からとある劇団の道化ピエロ。そして僕はこの会場の支配人。キミたちには今から芸をしてもらうんだ。それを見事達成できれば、支配人である僕に反旗を翻せるんだよ。」


と言うことは、それを達成できていない状態の場合、彼に攻撃できないと言うことだろうか。それにしてもこの空間、異様な雰囲気だ。魔界にいるような、とても悪辣な雰囲気を漂わせている。


「さぁ、観客も待っていることだし、”狂死曲芸ヴェルケトクンスト“の始まりといこうじゃないか!第一演目は、『飛剣舞踊シュヴェルトタンツェン』!さぁこの無数の剣と共に踊狂おどれ!」

「はぁ!?なんだよあの剣の数!?」

「文句言ってても仕方ない!避けるよ!」


剣はわたしたちを目掛けて飛んでくる。ステージの至る所に刺さり、その剣は消える。


「くそ…!これでどうだ!」


一度ヘインがアグノラのいる方向へ棘を飛ばしたが、アグノラの周囲を漂う無数の剣に弾かれてしまった


「ダメだって。道化が支配人に逆らわないでよ?」

「面倒だな…!」


剣の攻撃は止まらず、段々と激しくなっていく


「避けるので手一杯なのに、これ以上速くされたら、もう…!」

「さぁ、この演目もフィナーレだよ。最後の舞を、魅せてくれ」


攻撃が今まで以上に苛烈になり、物量も増える。だがなんとか、この演目を乗り切ることができた


「観客の皆様!無事に終わった彼らに盛大な拍手をお願いします!」


そう言った途端に、観客席の方からわっと歓声が聞こえてきた


「それでは第二演目に移りましょう!第二演目は、『焔輪潜抜フラムテウチェン』!無数の炎の輪っか。終わりが近づくにつれだんだんと輪の大きさが小さくなっていきます。最大まで輪が小さくなると人が並行になってぎりぎり通れるくらいの大きさです…!さぁ、スリル満点のこの演目で彼らはどう我々を魅せてくれるのか。それでは第二演目、スタートです!」

「理不尽だろ!ふざけるな!」

「はい潜るよ!これ追っかけてくるタイプだから!」


最初の方は簡単だった。日の輪の大きさも大きく、余裕で潜ることができた。だが問題は終盤に差し掛かってからの方が問題だ。この火の輪、出どころは不明だが、絶え間なく常に生成されて行っている。さっきの剣もそうだが、これ自体がこの空間内の効果なのだろうか?


「間ちっさ!ほんとに通れんのこれ!?」

「お前は大丈夫だろ!俺は無理かもしれんがな!」

「喧嘩ふっかけてきてんの!?こっちもだいぶやばいんですけど!?」


体を液体にすることで普通よりもはるかに楽に潜ることはできている。だがそれもだいぶ辛くなってきていた


「早く終われー!」


そういうと、火の輪が姿を消した。


「おめでとうございます!観客の皆様、無事通ることのできたこの道化ピエロたちに、盛大な拍手をお願いします!」


また、さっきと終わった時と同様に、観客席の方から拍手と歓声が聞こえる


「続いて第三演目!『即爆手玉エクスプロジオンクーゲル』!爆弾のジャグリングです!なんとこの爆弾、地面に触れた時点で即爆発します!触れるまでは何をしても爆発しませんが、爆発の威力は凄まじく、当たれば木っ端微塵です!時間が経つにつれ段々と爆弾が肥大化し、最終的に爆発します!まあ最後の爆発はダメージは無いですがね。それでは初めていきましょう!」

「ジャグリングとかした事ねぇぞ!どわっ!」

「文句言わない!やるしかないんだよ!」


一度落としたら即死の芸がスタートしたのだが、これは早い段階でヘインが攻略法を編み出していた


「こんなもの…!『小さな刺棘リトルスパイク』!」

「はぁ!?そんなのアリなの!?」


なんとこのヘインとか言うやつ、爆弾を自身の針と共に周囲に飛ばしやがったのだ。


「お前も液体なんだからそれでコーティングしてから爆発させればいいだろ!」

「あ。確かに」


そう言えばそんな方法があったな。でもこれあくまで劇なんだからそんな方法で攻略するのもどうかと思うけど…でも命より大事なものはない!


「な、なんと!爆弾をその場で爆発させてしまいました!彼らは生きているのでしょうか!?」(頭おかしいだろ!命惜しくないのこいつら!?)

「生きてるさ!無傷でな!」

「なんで生きてんだよ!…じゃなくて、みなさま、あの爆発から生還した2人に盛大な拍手をお願いします!」


生還したと思えば大きな拍手が聞こえてくる。まだ続くのかこれ…


「さて続いての第四演目は、『巨象蹴踏エレファントフルフト』!超巨大な像から逃走!それに加えステージには様々なギミックが仕掛けられており、それも避けながら逃げていただきます!かなり高難易度ですが、数多の演目を乗り切ったこの2人ならきっと達成してくれるでしょう!それでは開始です!」


そのコールと共に、マジでクソでかい像が現れた。


「なんなのこのサイズ!こんなのから逃げろって!?」

「おい!ごちゃごちゃ言わないでとっとと逃げるぞ!こいつはやばい!」

「わかってるって…!うわっ!?」


逃げようとした途端に、炎輪が出現し、至る所から一定間隔で剣が飛んできていることに気づいた。これが言ってたギミックってやつか!


「厄介すぎるな…とりあえず、これ頑張って乗り切るぞ…!」

「やってやりますよ!そうでもしないと死ぬならね!」


半ばヤケクソになりながらも私は必死にこの猛攻を耐え忍ぶのであった

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「…執念深いなこいつら…普通のやつなら第四演目で諦めてくれるんだけど…」


僕の界域『麻姑掻痒狂劇場』は相手を界域に取り込んだ時点で僕が事前に設定した“サーカス”を強要させることができる。それがこの第一から第八までで構成されている”狂死曲芸ヴェルケトクンスト“なのだ。


「今までのやつも、これを耐えれていたやつは片手で数えるほどしかいない…それも大体”即爆手球エクスプロジオンクーゲル“でみんな死ぬのに…まさか、ここまで生き残るとはね。」


僕は正直、イラついていた。ネクス姉様を傷つけたこいつらを生かして置けないのもそうだが、ここまで生き残るこの異形どもに対して腹立たしさを隠しきれずにいる


「ちぇ…とっとと死んでよ…第四演目ももうそろそろ終わるし、なんでここまで諦めてくれないのかな…早くゼオの加勢に行きたいのに…」


第四演目ももうそろそろ終わる。結構高難易度な演目で、第三演目を乗り切ったとしても基本これでフィニッシュだ。だがこいつらは依然として諦める様子がない


「あ、消えた。ちぇ、第五演目行きますか…」


第五演目は『死床球乗トートべシュタイング』内容は文字通りで、玉乗り。単純に床が溶岩になっていて落ちたら死亡っていうやつ。単純だからこそ、難しい。もうこれで終わるだろうなと考えていたのだが、この演目が、僕の墓穴を掘ってしまうとは、思いもよらなかった


「それでは、スタートです!」


その一言と共に、僕の最期へのカウントダウンの指針が傾いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る