#19 鍛錬と情報、そして同行者

異形衆アンダース』の人から勧誘を受けてから数日、私たちは情報収集組と修行組とで別れて行動することにした。情報収集はレツハさんとメディさんが、修行組は引き続きヘインと私がすることになった


「腕をこう真っ直ぐ伸ばして⋯そう、それで敵の腕に絡ませて敵の腕を封じたり⋯」

「はぁ、はぁ⋯は、はいっス⋯!」

「大丈夫?休憩する?」

「いや⋯一日でも早く⋯先輩たちの力になりたいから⋯大丈夫っス⋯!」

「無理は良くないぞ、クレア。」


クレアちゃんが息を切らしているので休憩するかと聞くと、ヘインが突然目の前に来てそう言った


「無理は⋯してないっス⋯!」

「いやいや、明らかに息を切らしてるじゃないか。それに、休憩は適度に挟まないといけないぞ。過度なトレーニングは体に毒だ。本当に一日でも早く俺たちの役に立ちたいと思うのなら、今は休憩することだな。」


ヘインが冷たく言い放つが、まあちゃんと心配しての言葉だろう。あいかわらず、素直じゃない人だ。


「うぅ⋯確かにそうっスね⋯仕方ない、ここは素直に休むとするっス。でも復活したらまた教えてくださいね。」

「うん、全然大丈夫。しっかり休むんだよ?」


するとクレアちゃんは休憩場へと足を運んでいった。


「全く⋯アイツ、無茶なことしようとするなぁ⋯」

「ね、明らかに体力切れてるのに、まだやる!って言って私の言葉全然聞いてくれないんだもん。」

「ははは、だがお前もしっかり面倒見てやるあたり、結構な世話焼きっぽいな。」

「まぁね、だって⋯」


まだ修行自体が始まって1ヶ月も経っていないが、それぞれ段々と才覚を見せ始めてきていた。中でも抜きん出ているのがクレアちゃんで、飲み込みが早い上に元の身体能力もかなり高いから、修行組の中でいちばん成長が早い。だからこそ私は、クレアちゃんの事を見てやっているのだ。


「お前にしちゃなんとも⋯いや違うな。多分、お前自身あいつのこと気に入ってんだろ?」

「う⋯」


ヘインの言葉が私に刺さる。気に入っている。それは本当にそうだ。初めてできた友達だし、気に入ってないわけが無い。


「⋯確かにそうだけど、それを理由にしてしまったら贔屓してるみたいで私は嫌なんだよ。だから、そういう理由って自分に言い聞かせてるの!」

「言ってしまったら意味ないと思うけどな⋯まあ最初の理由も嘘ではないんだろうが⋯」


そう、嘘ではない。と言うか結構ほんとに思っている事だ。才覚が抜きん出てるのは間違いない。


「ヘインさん!教えてください!」

「俺も呼ばれてるからあっち行ってくるな。お前も自分自身の鍛錬を怠るなよ」


そう言ってヘインは私の元を離れて呼ばれている人の方へと足を運んで行った。


「自分自身の鍛錬を怠るなよ⋯か⋯」


自分自身を鍛えることは疎かにしていないつもりだ。だが再度そう言われると不安になってきた


「よーし、頑張るぞー!」


私は背伸びをして、気合を入れ直し、自分の鍛錬に身を打ち込むのであった

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「文献にも載っていない…どうやら本当に文字通り、“最近できた組織”なんだな」

「そうっぽいですね。異形換算の“最近”は余裕で数十年とかありますからね。」


私はレツハさんと一緒に、『異形衆アンダース』に関しての情報収集を行なっていた。今はこの集落にある古い文献などをみて情報を集めているのだが、一向に情報が集まる気配はなかった


「本当に最近できた組織なら、それこそ文書庫とかにいかないと情報は集まんねぇぞ…」

「文書庫…ですか。でも私たちは人間の方達に顔が割れていますし、行こうにもいけませんね…」


“ヘイン・トラスト”、”メディ・フェイリア“、“レツハ・ブラド”、このメンバーは人間の帝国に顔が割れていて、この世界中で、重要指名手配犯となっている。そして“文書庫”というのは文字通り、さまざまな書籍が保管されている場所のことだ。人間の帝国以外にもありはするのだが、世界中で追われている身であるが故に、なかなかここから行動できずにいた。


「…やっぱ、あの『異形衆アンダース』所属のヤツらに効くのが最善か…」

「意外と近くで見てるかもしれませんしね。今度の勧誘までに少しでも情報は集めておきたかったんですけど、ここにある文献に載っていないのなら、集めようがありませんもんね…」


唯一の情報としてはあのフードの男の人の実力が、ヘインさんの実力の数段も上ということだけ。現に、あの数の兵士を一掃できるレベルだ。


「そもそも、勧誘に来た野郎が異形かって言うのすら分かってないからな。まぁ、『異形衆アンダースって言うぐらいだから異形なんだろうが…」

「そうですね…信用できるって言う証拠が一切ない上に聞いたことのない組織ですから全く信用できませんし、それは実際に来た時に聞けばいいですかね…」


だとしても、だ。答えてくれるかどうかは分からないし、次いつくるかも分からない。それに加え今この集落には戦える人がレツハさんしかいない。こんな状況で襲撃があったのならばそれこそ待ち構えているのは確実な”死”だ。そんなことを考えていると


「なんや?情報が欲しいんか?」


その声が聞こえた瞬間、私は背筋が凍るような恐怖感を覚えた。


「お、お前!いつの間にここに!」


なんの音もなく、この前のフードの男性がこのテントの中にはいってきていた


「そんなこと今はどうでもええやん。アンタらが困ってそうやったから接触したんや。『異形衆アンダース』の情報が欲しそうにしとったからな。やから来た。」

(気配すら感じなかった…一体何者なんですか、この人…)


私の体が恐怖で強張った。


「あー…お嬢ちゃん、無理な話かも知れへんけど、そんなに怖がらんでほしいなぁ…そんな露骨に怖がられたら、普通に傷つくんやけど…」

「いきなり登場して怖がらない人がいると思うか普通…」

「いやまぁ、そうなんやけど…」


目の前で少しそう言う会話をしているのを見ると、だんだんと、私も落ち着きを取り戻してきた


「もう、大丈夫です。すみません。迷惑かけてしまって…」

「いやいや、なんでメディさんが謝るんだ!謝るのはこいつの方だ!」

「善意で接してきてくれた人に対してこんな態度は取れませんから…」

「はぅ!?なんていい子なんや!?」


少し漫才っぽいですね。この状況…


「とと、本題からだいぶ逸れてしもたな。『異形衆アンダース』の情報やな?ええで、教えれることならいくらでも教えたるわ」

「…代価は?」

「代価ぁ?そんなもん必要ないわ。そもそも、アンタら払える程のもの持ってないやろ?」

「ぐ⋯悔しいくらいにこっちの状況を把握してんだな⋯」

「わはは、腹立つか?まあ今はそんなことどうでもええな。それで?知りたい情報はなんや?」


何故ここまで友好的に接してきているのか⋯以前来た時にヘインに棘を突きつけられていた。あの時も少し焦るだけで怒ってはいなかった。あんなことをされたら、接する態度を変えるはずだけど、この人は全く変割らず接してきている。それも”勧誘”としての目的を持っているとはいえ、ここまで友好的に薄い警戒心で近づいてくるのは正直不思議に思った。


「⋯じゃあまずは1つ目、『異形衆アンダース』はいつ出来たんだ?」

「そうやな、2年くらい前や。でも、 話題に上がってへん理由は、あんまり表立って活動してへんからやな。メンバー少ないからあんまり激しい活動が出来へんって言うんが正解やけど⋯」


そう言うとフードの男は萎れた葉っぱのようにしょぼんとして、目を少し虚ろにさせながら俯いた


「2年前に結成できてるのにメンバーが少ないのか?」

「そうや。2年前は異形がそんなに多くなかったし、そもそもとして人間の帝国の手から逃れられる異形の数が少ないのは兄ちゃんも知っとるやろ?」

「なるほどな…確かに辻褄は合ってるな。」

「最近はメンバー集めに奔走してる感じやな。まぁこんなナリやから、信用してくれる異形の方が少ないんやけど…まぁしょげずに頑張ってる感じやわ。」


フードの男がカラカラと笑いながら少しテンションを下げて言う。私からはどうみても、悪い人のようには見えなかった。


「あ、ひとつ言い忘れとったわ。なんかコソコソしとるの性に合わんから今度からアンタらと一緒に行動することになったで。情報なんざいくらでも教えたるから…あ、それが代価でどうや?」

「…お前がいいのなら俺はそれで構わない…だが、ヘインが許すかどうかはまた別の話だぞ?…俺もお前のことは信用しない。が、こうやって言葉を交わしてもお前は悪い奴には見えないからな。俺は許す。」

「信用してくれるん!?ほんまかいな!?うぅ、普通に泣きそうや…」

「信用しないって言ったよな?」


今まで一体勧誘の時にどういう苦境があったんでしょう…そんなことを考えつつ、私は彼をみていた


「そうやな…名前教えとくわ。なんかあった時に名前知っとかんと不便やろ。あ、アンタらはせんでもええで。名前は把握しとるからな。」

「なんでさも当然のように俺たちの名前を把握してるんだか…」

「さぁ、なんでやろうな?それは自分で考えてみぃや」


彼はカラカラと笑い、こちらに向き直って


「んじゃ、自己紹介するわな。ワイの名前は『ソルグロス・フュズィーク』長い名前やがよろしゅうな。気軽に『ソル』とかそんなふうに呼んでくれて結構やで」


なんだか特殊な名前に聴こえますね。あまり聞きなれない名前だからでしょうか?


「知りたい情報ならいくらでも教えたるから、その“ヘイン”には話つけといてや!準備できたらまた来るで!ほなな!」


こうして、わたしたちの中に同行者が来たのであった。

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