#10 提案
私はヘインがいる医療所に向かいながら、メディさんと色々談笑していた
「そういえば、メイプルちゃんの異形って、一体どういったものなんですか?」
なんの突拍子もなく、メディさんがそんなことを聞いてきた。でも、いろいろ教えてもらってばっかりのもなんだし、教えるのが道理だろう。
「私の異形は、体が粘性のある液体になるって言うやつです。なんの戦闘にも使えない、普通の異形です」
メディさんは小首を傾げて
「本当に使えないんですか?」
と聞いてきた
「体が粘性のある液体になるだけですよ?せいぜい回避とか防御とか、それくらいにしか使えないです」
「いや、回避や防御ができるなら、それを攻撃に転じることもできるんじゃないでしょうか」
メディさんは、私にそう疑問を投げかけてくる。防御や回避から攻撃に転用する。確かに、そんな考え方は持ってすらいなかった
「そうかも知れないですけど、身体能力が高いわけじゃないので…今は異形になったから身体能力が上がっただけで、私自身の身体能力はそこまで高いわけじゃないですから」
「あはは…とことんネガティブですね…あなたは自分が思っているより、ずっと強いですよ。そんなに自分のことを卑下しなくてもいいじゃないですか」
「でも…」
「でもじゃないです!」
メディさんは私の言葉を遮ってそう言ってきた
「メイプルちゃん、私に言ってくれたこと、覚えてますか?」
「私がメディさんに言ったこと…?」
「はい、さっき、『責任はあなた1人だけじゃないんです』って言ってくれたじゃないですか。」
その時のことか。咄嗟に出た言葉だから、何も覚えていなかった。だが、咄嗟の言葉だったとはいえ、あの出てきた言葉に嘘はなかった。
「それと同じです。あなたがそんなネガティブなのは、知らぬうちに1人で抱え込んでるからじゃないですか?さっきそう言ってくれてたとはいえ、おそらく、あなたは自分1人で責任を抱え込んでしまっている…なんか、そんな気がします」
自覚はない。責任を1人で抱え込んでしまっているのだろうか。ネガティブになるのもそのせい?否定したい。だが、否定できない私がいた
「なので、そんなに自分のことを卑下しないでください!責任はみんなにあります。さっきのお返しですけど、あなた1人で背負うものでもない。それに、まだ知り合って数時間なんですから、責任を負う必要は、本来ないんですよ?」
「メディさん…」
「さ!こんな辛気臭い話はやめましょう!着きましたよ!」
「ココが…」
随分と立派な診療所だ。簡易的なものではなさそうだった
「入って入って。なかでヘインさんが首を長くして待ってますよ」
メディさんは私にそう催促して、そそくさと中に入って行くのに、私もついて行った
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「ん…来たか。キリンになってしまいそうだったぞ」
ヘインがいるという病室を開けて、ヘインを見ると、突然そんなことを言ってきたため、私は唖然としていた
「…む?なんか微妙な反応だな…そんなに面白くなかったか?」
「いや…そんなこと言うんだなと思って…」
いや、ほんとにキャラと違いすぎるんだけど…さっきまでのクールキャラはどこにいったんだ一体…
「俺だって冗談くらい言うさ。いつまでも真面目ぶってちゃ、堅物って思われるだけだろう?」
「それはそうですけど…」
そりゃあ常に真面目なのもダメな気はする。ヘインの言いたいことはわかるのだ。わかるのだが、それにしてもキャラ違いすぎやしない?
「…さ、おちゃらけるのは終わりだ。とあることをお前に提案したくてな」
「提案…?」
さっきのふざけた雰囲気から一転して急に真面目な雰囲気となったため、少々困惑しているが、提案と言うのはとても気になる。
「ああ、お前に戦い方を教えようと思ってる。」
「戦い方を、教える…え!?」
何度も言っているが、まだ会って数時間しか経っていない。なのになぜか、メディさんの過去を教えてもらったり、異形を教えてもらったり、挙句には戦い方を教えると言われたり…なんなんだ一体
「ちなみにお前に拒否権はない」
「強制じゃん!提案じゃないじゃん!」
「いや提案だ。だが状況的にお前は断るにも行かないだろうと思ってな」
確かに、ヘインがあんなボロボロになって帰ってきたんだから、戦力の増強は必須。だけど戦えそうな異形を持ってるのも私くらい。だから断ろうにも断れないのは確かなんだけど…!
「狡いことするなぁ…」
「はまったお前の負けだ」
くっ…!ヘイン、悪知恵も働くのか…!だからこそ、ヘインは戦闘に強いし、どこまでも現実主義者だから、あそこまで冷徹に、即断で合理的な判断をすることができるのだろう
「わかったよ。やりますよ!自分の命守れるなら、やってやりますよ!」
ここまできたらもうやけだ。絶対戦い方を覚えて役に立ってやる!
「ふっ、お前ならそう言うと信じてたさ、ありがとな」
「いやほぼ強制ね?私選択の余地なかったからね?」
「断れば恩人を殺すかもしれねぇもんな」
ヘインはケラケラ笑いながら私をみてそう言い放ってきた。こんの…!とも思ったが、メディさんがもし襲われた時、もしくは私自身が襲われた時に役立つだろうと思って、そのヘインの提案を私は渋々承諾したのであった
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「ふーん…修行するんか…」
木の上で、深くフードを被った男はそう呟く
「ええな、ある程度強くなってから勧誘しても遅くはなさそうやしな」
男はしばし、病室の会話に耳をかたむけていた
「…とりあえず、少し時間を置いてから再度勧誘しにくるか。戦力は大きい方がええからな。」
男はそういった後、ニヤリと笑いながら
「…これからもっと楽しくなりそうやな…楽しみや…人間どもに、叛逆の狼煙をあげるのも、そう遠くない未来の話かも知れへんな」
そういい、男は木の上から姿を消した
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