#8 目覚め
メディさんがヘインへと手を翳す
「私の異形は、身体を薬品にすることができると言うものです。危険ドラッグなどではなく、本当に治療目的で使うお薬しかすることはできませんが」
完全にサポート向けの異形なんだな…道理で戦えないわけだ。なおのこと自分の事を卑下する必要なんてない気がする…
「まずは傷だけ治して、そこから内臓を治していきます。私の液薬は浸透するので、塞いでからでも大丈夫です」
メディさんが薬品を垂らすと、その薬品が落ちたところからみるみるうちに傷が治っていく。初めてみるが、これは効能が凄まじい
「おお…!傷が癒えていく…!」
「…っ、」
一瞬、メディさんが顔を顰める
「大丈夫ですか?体調悪いんじゃ…」
「いえっ…大丈、夫です、気にしないでください」
効能が凄まじいだけあって、デメリットもかなりのものっぽいな…大丈夫だろうか
「よし…外傷の傷が治りました。次に内臓側を治していきましょう…」
明らかに、メディさんの顔から元気がなくなった。異形の使用の反応だろうか
「ふぅ…『
内側だから分からないが、雰囲気的には修復に成功したような感じがする
「措置は終わりました…あとは寝かせておいてあげてください」
「メディ殿!感謝する!」
そう言って里長と傭兵はヘインを連れて民家の外へと出た
「すいません…少し、寄りかからせてください」
「全然大丈夫そうじゃないじゃないですか。なんでそんな無理したんですか」
「ヘインさんが…がんばってくれたから…あの程度で私が倒れてたら、ヘインさんに合わせる顔がありませんから…」
さっき責任を負う必要はないって言ったばかりなのに…この人は、必要以上に自分のことを追い詰める癖がある人なんだろうな
「もう、さっき1人の責任じゃないって言ったのに…」
「えへへ…すいません。そう言われたとしても、やっぱり責任は拭えないものですから…ちょうどいい機会ですし、私の異形について、詳しいとこまで教えておきますね」
「いいんですか?」
「はい、全然大丈夫です。なんだかあなたは…信用できそうなので」
さっき知り合ったのと同然なのに、なぜここまで自分の情報を教えてくれるのか…普通に疑問だが、好意には甘えることにしよう
「さっき言った通り、私の異形は体を医療系の薬品にするコトができるものです。自分で効力を決めることができるんですが、効力が強ければ強いほど、私自身に起きる副作用が強くなってくるんです」
さっきの薬品、おそらくとても効力の強い薬品なのだろう。あんな秒読みで傷が速攻で治るなんて、普通の薬品ではないことは確かだった
「でも正直、本当に生かせるかなんてわかりません…あの状態で死ぬ場合もあります。私の薬は外傷や内傷を治すものであって、命を救うものではありませんから…」
メディさんの顔がまた暗くなる。おそらく、自分の不甲斐なさを痛感しているのだろう。
「…私は、本当に何もしていません。いや、他の人たちと違って新参者ですから、何かをするにしても、全部マイナスな方向に進むんじゃないかなって、不安になるんです。…こう言うとこ、少しだけメディさんに似てますね」
さっきメディさんは自分のことを、自分だけを悪く言っていた。それは違う。メディさんはさっき、最善を尽くしたはずだ。自分が辛くなるのがわかってて、助かるかも分からないのに、目に見えない傷まで、全て治した。それだけで、やったこととしては十分すぎる成果だろう
「何もしてないわけではありませんよ」
「え…?」
なんの突拍子もなく、メディさんが私にそう言ってくれた
「私のこと、慰めてくれたじゃないですか。」
「…何かに貢献した訳じゃないじゃないですか。それに、その慰めだって優しさじゃなくて自己満足の偽善行為です…」
「その偽善行為で、私は少し救われましたよ。おかげであの場面で理性的な判断を取れました。あのままだったら、私は治療なんて考えが浮かぶことなく、慟哭していましたよ」
あの場面、と言うのはおそらく傭兵が帰ってきた時のヘインの様子のことだろう。だが仕方ないことだと思う。私も、親しい人物があんな姿になって帰ってきたとしたら、慟哭まで待ったなしだろう
「何はともあれありがとうございます!私は救われました。ヘインさんのことも、少しの間お願いしますね…」
「え?メディさん?」
「スゥ…スゥ…」
「…寝ちゃった…」
私が名前を呼んだ時には、メディさんは私の隣で、寝息を立てていた。
「お願いしますね…って、具体的に何をすればいいんだろう…」
突然お願いされたため、何をすればいいのか分からなかった。とりあえず、目が覚めるまでここにいよう
「ん…なんだか私も眠くなってきちゃった…」
急展開の連続だったから、疲れが溜まっていたのだろう。横で眠っているメディさんを見ると、なんだか私も眠気が突然襲ってきていた。長いこと気を失っていたから、しばらくは寝なくても大丈夫かなと思っていたのだが、やはり人間、眠気には抗えないものである。異形になってもこの感覚は変わらない物である
「少し眠ろう…疲れちゃった…」
私の意識はそこでブラックアウトした
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ん…ここ、は」
ベットで寝かされていた青年はそこで目が覚めた。そして、今自分が置かれている状況について、疑問に思っていた
「…死を悟ったって言うのに、なんで生きてんだか…こりゃ、メディに怒られちまうな」
口上ではそう言っているが、青年の表情は安心そのもので、とても死を覚悟していたとは思えない顔をしていた
「この感じ…あいつ、俺に異形使ったな、それに、特上の…どんだけ体力使ってんだか…感謝しないとな」
青年は呆れた感じで嘆息を吐く、だが感謝の念もあるようだった
「まだ全身が痛むな…外傷とかは治せても、根底に残る痛みは消えない…か。しばらくは安静にしておくとしよう」
青年が再び毛布をかけ、眠りにつこうとした瞬間、ドアが開いた音がした
「ん…誰だ…?」
青年がドアの方を向くと、そこには驚きの表情をしている少女がいた
「…おはよう、メディ。元気、してたか?」
「…っ!!ヘインさん!」
少女は青年へ飛びつくように抱きついた
「ちょ、まだ痛みは引いてな…痛って!?」
「よがっだぁ!ほん゛どによがっだぁ!!」
「ちょ、頭ぐりぐりするなって!痛いから!死ぬ!落ち着け!痛タタタタ!」
少女は泣きじゃくりながら、青年へと頭を押し付ける。青年は痛みで気絶しそうになっているのにも関わらず
「ううっ…ぐすっ…ほんとに…心配したんですよぉ…死んじゃったらどうしようって…ずっと…ずっと心配して…」
「いっつつ…お前らが助けてくれたおかげだ。ありがとな。」
少女は泣き止み、安堵の表情を浮かべた
「…そういや、メープルはどうした?」
「彼女、里長の家で寝ちゃってます。私が先に起きちゃったみたいで、今もぐっすりと眠ってますよ」
「…そうか、無事ならそれでいい。里長ってことは、ラルフさんのとこの隠れ里か。誰がここまで持ち運んできてくれたんだ?」
ヘインはそこで疑問だった所に触れる
「レオ君ですよ。ほら、あなたが昔助けた傭兵の」
「あぁ、あいつか。後で呼んできてくれないか?礼がしたい」
「構いませんよ。私は今から里長とレオ君を呼んできます。とりあえずしばらくは安静にしといてください。まだ、痛みは引いてないでしょうから」
少女のその言葉に、ヘインはありがとう、と感謝の言葉を述べる。心の中では
(さっき抱きつかれたので、痛みが悪化した気がするけどな…)
余計なことは言うまいと、その言葉を心の中でポツリと呟くのであった
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