第41話 消えたマーティン

 すべては父から始まった。

 違法な人身売買、臓器売買、大量殺人。そしてお母様も巻き込まれ、私も復讐の殺戮に手を染めてしまった。目の前には血にまみれ息絶えたと、正気を失っている数人の信者達おとこたち。隣には一之瀬さんがいた。

「間に合わなかったわね。申し訳なかったわ。」

 ふいに後ろで声がした。

「誰ですか。」

「私は日本のネームで、香川みなみ。デリアの娘よ。と言っても血は繋がっていないけれどね。」

「なぜここに?」

「私はこういう者。」

 香川みなみはFBI手帳を開いた。

「連邦調査局が絡んでるなんて聞いてない!」

 一之瀬がゆづりをかばうように前に出た。

「極秘調査だったから、ごめんなさいね。この後の処理は任せてちょうだい。」

「はいそうですか、と言えません。警察も…松村警部も呼んでください!」

「彼は、警視庁で爆弾処理の後始末してるわ。があって、警視庁は爆破されずに済んだわ。」

「あの…マーティン・ホフマンはどうなったのでしょうか?」

「マーティン・ホフマン?誰かしら?」

「ご存じなければいいんです。一之瀬さん、ここを出ましょう。」

「あ、ああ…。」

「あ、待ってゆづり。落ち着いたらお話を伺うわ。そしてあなたは…FBIで保護させてもらいます。」

 そこだけ聞くと、私は地下室から外へと向かった。


 入り口は爆破されていたものの、すでに瓦礫がれきは避けられ、FBIと思われる外国人が数人と警察が集まっていた。

「マーティンはどうなったのかしら。」

「神代さん、マーティンって誰なの?」

 不思議な顔をして一之瀬はゆづりに訊いた。

「マーティンよ、マーティン・ホフマン。一之瀬さん、会っているでしょう?」

 一之瀬はあごに手をあてて考えこんでいた。

「もう!地下室で頭でも打ったのかしら?」

「そうなのかな…。」

 そこでゆづりのバイオリンケースから携帯電話の音が鳴った。

「あ、一之瀬さんのケータイ。私が拾って持っていたの。今出すわね。」

 ゆづりは慌ててバイオリンケースから携帯電話を取り出し、一之瀬に渡した。

「はい、一之瀬です。松村先輩、無事で良かったです。はい、…はい。」



「警視庁に仕掛けられた時限爆弾も小さな規模であったため、解体にはそれほど時間はかからなかったんだ。二人とも無事でよかったな。」

 ゆづりと一之瀬は松村に呼ばれ、ロビーの椅子に座っていた。

「あの、マーティン・ホフマンはどうなったかご存じありませんか?」

「マーティン・ホフマンさん?どこの人?」

「以前、松村警部にもお会いしてるかと?元の屋敷の前で別れてから行方がわからなくて心配してるのですが。」

「そんな人に会った記憶ないなぁ?」

「これ、なにかの冗談とか嫌がらせですか?一之瀬さんといい松村警部といい。」

「神代さん、そんなつもりもないし、とぼけているわけでもない。神代さんと一緒に会っているなら必ず覚えているはずだよ。けれど、マーティン・ホフマンという人に会ったことはない。断言できる。」

 松村に続き一之瀬も頷いた。

 

 一体これはどういうこと?



 

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