謝罪会見 2

 ブロ子さんがひっそりと退場した後、会場は一気に那智の独壇場となった。


「ワハハ、どうしたのですか。みなさん、そんな呆気に取られたような顔をして。あ、緊張?緊張してるんですか。いやいや気楽に行きましょうよ。え、私?私は大丈夫ですよ。だって謝罪会見なんて滅多にできない経験ですからね。楽しまないと。え、司会の人がいなくなった?ホントだ。ブロ子さん、どうしたのかなぁ。お腹空いたのかな。ま、いいや、そのうち戻ってくるでしょ、ワハハ……」


 会見テーブルに正座したまま上機嫌で喋りまくる那智を記者たちはここぞとばかりにカメラに収めまくる。

 カシャカシャカシャ……。

 あちこちから盛大にフラッシュが焚かれ、ピースサインを向ける那智の姿がコマ送りのように明滅する。


 なんなんだ、これは。

 これが謝罪会見だなんてどうかしている。


 そこにいる誰もがそう思ったが、それを誰も口にできない。

 なぜだろう。

 那智の創り出すその一種異様な雰囲気に記者たちは気圧されたようにただ写真を撮ることしかできない。

 もし事情を知らない者が遠くからその様子を眺めればきっと高座の落語家とその客のように見えたことだろう。


 ところがそのとき、会場の出口に近いところで異音が鳴り響いた。

 ブオォォーン、ブオォォーン……。

 音に驚いた記者たちが後ろを振り返るとそこに猛り狂ったようにマキタの草刈機ブンブンを振り回す美魔女がいた。

 そして彼女は草刈機の音に負けないくらいの大音声でこう問うた。


「那智氏ぃッ!あんた、いったいどういうつもりよ!」


「ひ、緋雪さん……ど、どうしてここが……」


 那智が引き攣った声でそう聞くと、緋雪氏はマキタの草刈機ブンブンを頭上に掲げながら近づく。するとモーゼの十戒のように記者たちの囲みがサッと開いて道ができた。


「ねえ、あんたが送ってきた謝罪会見の招待状。会場がエスコンフィールド(北海道北広島市にあるプロ野球球団日本ハムの新球場)になってたんだけど、どういうこと」


「え、と、そ、それは……」


「しかも日付、明日になってたし」


「……」


「あのね、今朝、鐘古氏が教えてくれたの。関係者全員、嘘の日付と場所を教えられてるってね。さあ、しっかり事情を説明してもらいましょうか」


 草刈機がまた唸りを上げた。

 よく見ると緋雪氏の背後にはニューマシンの草刈機を手にしたご主人が立っていて那智を睨みつけていた。


 さあ、那智氏の運命やいかに。


 つづく


 ホント、リアルにやばいですね、那智。

 こんなに引っ張って良いんでしょうか?

 いや、よくない。

 

 



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