第183話 残された者の想い(大谷美久、荒井玲奈、安本早苗)

(大谷美久)



私とひさとお兄ちゃんとの出会いは、ゾンビから逃げていて転んじゃった時だった。


お兄ちゃんも直ぐに戻って来てくれたけど、もうダメと思って怖くて目を瞑って泣き叫んだ。


でも気付けばひさとお兄ちゃんが目の前にいて、私を抱っこして助けてくれたの。


そして美味しい焼肉を食べさせてくれて転んだ傷の治療もしてもらった。

移動では足を怪我した私をお父さんみたいにおんぶして運んでくれた。


その後、私たちを受け入れてくれる避難所を探して回ったんだけど、私はひさとお兄ちゃんと離れたくなかったので「君達さえ良ければ僕と一緒に来ないかい?」と言われた時は凄く嬉しかった。


そして、ホワイトフォートでの生活はすっごく楽しかった!

勉強は少し嫌だったけど、まるで元の生活に戻ったみたいに楽しい毎日だった。


でもやがて悪い人たちがやって来て、ひさとお兄ちゃんたちの家族が追い出される事になった。


ひさとお兄ちゃんが追い出されるなら私たちだって着いていくもん!

だって、ひさとお兄ちゃんは私たち兄妹を家族だと思っているって言ってくれたんだから。


その言葉通り、家族しか使えない眠ってしまったひさとお兄ちゃんのアイテムボックスを私は使えるみたいだった。


やった!


前に言ってくれた様に、本当にひさとお兄ちゃんは私を家族だと思ってくれていたんだ!


ひさとお兄ちゃん早く目を覚まして。

私もひさとお兄ちゃんが目を覚ますまで、みんなの為に頑張るから。


私はアイテムボックスを使えるので、みんなにお菓子を配る事にした。

アイテムボックスから色んなお菓子を出して、同じ車内の子供たちや別の車に乗る子供たちにお菓子を配るの!


美味しいお菓子を食べれば、きっとみんな笑顔になる。

私は私の出来る事をみんなの為にやっていきたいと思う。





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(荒井玲奈)



私のお兄ちゃんは中肉中背でイケメンとは言えず、勉強もスポーツもそれなりで、お隣の真理ちゃんを好きなのは丸わかりだけど、その恋は私から見ると一方通行で全く叶いそうに思えなかった。


でもパンデミック後に避難先に現れて間一髪でパパと私たちを救ってくれたお兄ちゃんは、別人に思える様に背が高く筋肉質でスマートな体型になっていた。


私たちと再会するまでに苦労したからだろうか、顔付きもなんだか精悍になっており、これなら充分にイケメンと言えるだろう。


それとは逆になぜか真理ちゃんとは仲違いしたらしい。

代わりと言っては何だけど、背が高く美人系の明日奈さんがお兄ちゃんに寄り添っていた。


お兄ちゃんは何やら凄い力を手にしたみたいだけど、私から見ると内面は全く変わっておらず、昔からの無害で優しいお兄ちゃんだ。


お兄ちゃんは私が飼育しているハムスターもとても可愛がってくれていたし、再会するとハムちゃんたちのケージや餌やおやつも直ぐに新しい物を用意してくれた。


ホワイトフォートでは勉強以外はとても楽しく暮らせていた。

私のパパがリーダーだと言うのも誰にも自慢はしてないけど内心は鼻高々だった。


だけど小学校での襲撃で、パパは私たちを守るために犠牲になってしまった。


ママは今でも沈み込んでいる事が多い。

お兄ちゃんも目を覚まさないし、こんな事になるのならパパに大好物だったカツ煮や塩辛や明太子をたくさん食べさせてあげたかったと言って……


私もパパを含めたみんなの死は凄く悲しい。


だけど最後に聞いたパパの言いつけ通り、朝はちゃんと起きて移動中でも勉強はする様に心がけている。


いつか良い大人になって、みんなの役に立てるように。





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(安本早苗)



私が冴賢さんと出会ったのは、避難所が崩壊して親を亡くした子供達を連れて逃げ回っている時だった。


避難所の崩壊時、私たちは周りの大人たちに助けを求めたけど、誰も私たちには見向きもせず逃げてしまい、必死で避難所から少し離れた建物に隠れる事になった。


食べる物は全然無くて外はゾンビだらけ。

私の周りには小学生以下の子供たちが四人……


とても心細かったけど私がなんとかしなくちゃと思い、危険な外へ食料を探しに行った。


でも結局見つける事は出来ず、戻ったところで子供たちが車で誰かに連れ去られるところだった。


「待って! その子たちをどうする気!」


私は辺りからゾンビが来てしまうかも知れない事も忘れて大声で叫んだ。


「感染者が集まってる。君も乗って! 早くここを離れよう!」


それが冴賢さんだった。

冴賢さんは私にも車に乗る様に言い、私たちは保護される事になったの。


そして一緒に移動しているうちに冴賢さんの力の事を知った私は、冴賢さんを思わず責めてしまった。


冴賢さんがその力を存分に使って全てのゾンビを退治してくれていれば、私やこの子たちの両親も死ぬことは無かったのにと恨んだ。


でもそれは間違いで、冴賢さんだって死ぬか生きるかの瀬戸際で生きているんだって聞かされ、そもそもそんな義務も無いことに気づいて謝罪した。


冴賢さんは優しく私を許してくれて、救えなかった事も謝ってくれた。

そして両親の分までこの世界を生き抜く必要がある事を教えてくれた。


ホワイトフォートはとても安全で、子供達とも仲良く楽しく暮らすことが出来た。

光司くん美久ちゃんの兄妹とも暮らすうちに凄く仲良くなった。


光司くんは凄く大人びていて、話していると頭が凄く良いことに気付く。

冴賢さんも頼りにしているみたいだし、小学校での襲撃後は参謀兼副リーダーとなって今も皆を引っ張ってくれている。


私も私の出来ることを頑張って、皆さんの役に立ってゆきたいと思う。

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