第174話 救出と犠牲(5/2)

(パパー荒井雅則)


冴賢が倒れたまま動かねえし、サイコ部隊もジリ貧だ。

このままじゃ全滅だな。


とうとう覚悟を決める時がきたか……


「守備隊のみんな! このままじゃサイコ部隊も全滅だ、奥の手を使う時が来た! 悪いがみんな……俺と一緒に死んでくれ!」


「ほっほっ、良いじゃろう!」

「やっとかよ!」

「とうとう俺達の出番か!」

「ああ、やってやろうぜ!」

「若者達の未来の為に!」

「あいつらは皆の希望だからな!」

「「「そうだ!」」」

「「「やろうぜ!」」」

「「「おお!」」」


これから確実な死が待っているというのに沸き立つ守備隊の皆。

そこに武田さんとモールグループの島田が前に出る。


「荒井さん私も行きます! 真理も冴賢君のところに行ったし、娘の過去の償いをさせて下さい!」


「俺にも手伝わせて下さい! 皆の役に立って死ねば、あの世で妻と娘にも自慢が出来ます!」


そうか、想いはみんな同じなんだな。


「武田さん、島田……分かった、一緒に行こう!」


俺は二人に頷き、手早く考えていた作戦を説明する。


「5人ほどで煙玉を冴賢達の場所を中心に、あるだけバラ撒いてくれ! それと、対物ライフルが使える者は左右に別れて奴らを狙撃! 棒立ちになっている今なら当たるぞ! それから俺と一緒に5、6人ほど来て、手榴弾と小銃の乱射で現場をかく乱。味方に当てるなよ! 後の皆は入口を死守して欲しい! 封鎖する前に避難させた脱出口に侵入されたら終わりだからな! それじゃあみんな! あの世で会おう!」


「「「「「「「「 おおお! 」」」」」」」」




ーーーーー



(荒井冴賢)


殺られる寸前の僕達の前に、多数の煙が立ち上がって視界を覆い尽くす。

これは緊急時の撤退用に用意した煙玉だ! パパ達なのか? 


(ズダダダダダダ!)

(ダダダダダダ! ダダダダダダ!)

(ズドーン!)


そして銃撃と共に守備隊の皆がなだれ込んでくる。

小銃の乱射と、危ないからと封印していた手りゅう弾も使っているようだ。


「冴賢、無事か!」


「……パパ」

「おじさん! お父さんも!」


「生きてるな! 真理ちゃんも。良し、お前達六人は今直ぐにここから撤退しろ! 俺達守備隊が脱出までの時間を稼ぐ。今なら対物ライフルの援護もあるからな! お前達が脱出したら直ぐに入口を塞げ!」


「だがよ!」

「荒井殿、無茶です!」

「皆で逃げましょう!」

「そうよ!」


「問答してる状況じゃない! リーダーの俺の指示に従え! そして絶対に冴賢だけは死なすんじゃない、こいつは未来への希望なんだ! 分かったら行け!」


「「「「「……はい!」」」」」


虎太郎さんが怪我の無い方の腕で僕を肩に担ぐ。


「だ、駄目だ……パパ……」


パパや守備隊の皆が犠牲になろうとしている。

武田さんや島田さんまで。


でも、魂を傷付けられたせいか力が出せない……


「冴賢、強く生きろ。これからはお前が皆を導くんだ……玲奈とママには謝っておいてくれ……行け!」


「真理も行きなさい、母さんによろしくな。冴賢君、真理を頼むよ」

「お父さん……」


背中越しにパパと武田さんが最後の言葉を伝えてくる。

それを聞いて頷く真理と、僕を担いだ虎太郎さんが走り出した。


そんな! 嫌だよ……





-----



(東堂達也)


俺は倒れた冴賢と奴の仲間達をジェネラルと変異体で囲んでいた。

そろそろ真理や仲間ともども止めを刺してやるぜ!


だが、何かが投げ込まれると同時に急に辺りが煙に包まれた。

煙かよ! うぜえな!


(ズダダダダダダ!)

(ダダダダダダ! ダダダダダダ!)

(ズドーン!)


なんだ? 煙に紛れての銃撃か。

だが俺にはこんなもん効かねえぜ!


「うごっ!」


腹に物凄い衝撃を受けた!

穴は開いてねえが、数発の銃弾を受けて吹き飛ばされちまった。


いつの間にか冴賢と真理、仲間達がいねえ!

くそがあっ! 逃げられちまったじゃねえか……


まあ、直ぐに見つけてぶっ殺してやるぜ!

今はコイツラの魂でも喰らってやるか。


俺様の邪魔をしやがって!


死ねっ! 死ねっ! 死ねえっ!


……


俺様達は冴賢を助けに来た仲間達をぶっ殺した。

そこら中に死体が転がっている。


斬り裂かれた者、潰された者、引き裂かれた者、穴だらけにされた者、ほとんどが原形を留めていないほど無残に殺されている死体ばかりだ。


さぞや苦しんで死にやがっただろうと思ったが、皆顔が笑っていやがる……

全く気持ち悪いやつらだぜ!


だが、もうそろそろ起き上がってゾンビになっても良い頃合いだろう。

こいつらの魂も、俺様が吸収して力にしてやるんだ!

光栄に思え!


だがその時、急に小さな祠の様な物から眩しい光が漏れ出し、それがだんだんと巨大な物になっていった。


なんだあ、こりゃあ!

光が収まると、眼の前に白い巨大な蛇の様な物が浮かんでいた。


膝が勝手にブルブルと震える……

馬鹿な! この俺様が震えているだと! あり得ねえ!


「神の眼前よ。跪きなさい!」


ぐあッ!


俺は強制的に膝を折られて、跪いた。

こいつは……こいつも神なのか?


「ふふっ! 祠は粉々に壊れてしまったけど、お陰で何とかここに顕現できたわ。こんなに美しく光り輝く綺麗な魂を、お前なんかに食べさせるなんて勿体ないもの。この者達の魂は私が貰っていくわ」


ぶっ殺した奴らの魂なのか、キラキラした物がこいつの周りに集まって来る。

しかし、こいつは一体……


「私はこの地の神だった者よ、東堂達也。いえ、もう暴食の魔王ね」


流石の俺様でも神には逆らえねえか……

しかし、俺が魔王だと?


「そうよ。邪神に魔王の種を埋め込まれたのよ。今はお前自身の魂も取り込まれて、完全な魔王になっているみたいね」


まあ俺は邪悪な神に魂を捧げたんだからな。

お前も、そのうちぶっ殺してやるぜ!


「無駄よ。神を殺せるのは、同じく神だけだから」


……畜生が!


「神は直接的に下界の者には手を下せない。でも、待っているといいわ。今は傷付き倒れているかもしれないけど、お前は私の使徒がきっと倒す! その時を首を長くして待っていなさい。この魂達もそれを望んでいるみたい。それに色々な魂が迎えに来ている様ね、魂の繋がりが見える。いいわ、皆まとめて連れて行ってあげる」


白い蛇がそう言うと、キラキラした物が一斉に天に昇って消えてゆく。


「私はもう戻るわ。でも、そうね。あの魂達の願いでもあるし……一度だけあなた達をこの辺の土地ごと遠くに飛ばす事にするわ。それぐらいの手助けなら大丈夫なはずよ」


何いっ!


白い蛇がそう告げた瞬間、俺とジェネラル、マンイーター共は何処とも知れない極寒の地に飛ばされていたんだ!


自由になった俺は立ち上がって誓う。


くそっ、上等だ!


冴賢、お前を必ず探し出し、今度こそ絶対にぶっ殺してやるぜ!

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