第168話 驚愕の再会(5/2、サーチ範囲3000m)

早いもので、パンデミック発生からあと一ヶ月もしないで一年が経つ。


もう三日ほどで子供の日もやってくるので、その日はひな祭りの様にイベントを企画していると告知してあるんで、小さい子供達はそれを聞いてとても楽しみにしてくれている様だ。


まだ継続して戦闘訓練は続けているんだけど、こうやって休日にイベントなどをこなしながら僕達は壁の中で平和に暮らしていた。


モールグループの人達も受け入れから二週間以上経ち、この生活にもかなり慣れてきたようだ。


モールグループには、光司君のアイデアで街から無人のビルを拝借してきたものを住めるように改変し、それを校庭の隅に立てて暮らしてもらっている。


そして戦闘訓練もだけど、人数が増えて大変になった食堂や店舗でも働いてもらっているんだ。


パパの方針ではもう一ヶ月ほどして暖かくなった頃に、大体六月中ぐらいにここを出て、新潟を経由して佐渡ヶ島を目指す事になっていた。





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日課である早朝の訓練中、急にアイジスの警告が僕の頭に飛び込んで来る。


(マスター! 複数の高エネルギー体が高速で近づいて来ます! 既に距離2800mを切りました! ゾンビウィルスの変異体だと考えられます)


慌ててサーチで状況を確認すると、漆黒の点と黒に近い紫の点がこちらに迫っている事が分かった。


これは! 白蛇さんから警告されていた、例の特殊な変異体かも知れない!

僕は直ぐにキャンピングカーに戻ってパパに知らせる。


「パパ! 大変だ! 例の特殊な変異体がこっちに向かって来てるよ!」

「なんだと! ママ、直ぐにサイレンを鳴らしてくれ! 緊急警戒態勢だ! サイコ部隊と守備隊は校庭に集結して警戒態勢を取るんだ!」


僕達は緊急事態に対応するため事前に訓練を行っていたんだ。


サイレンが鳴ると非常事態のサインであり、非戦闘員と子供は小学校の本校舎に避難して、いつでも秘密の脱出路から離脱可能になっている。


「うん!」

「了解しました!」

「りょ、了解です!」


僕、綾音さん、茜さんはパパに言われた通り、校庭で警戒に当たる。

僕とアイジスは精神感応テレパシーで各所への連絡を行った。


(アイジス! 非常事態マニュアルに従って、各所に連絡をお願い)

(承知しました)


(ウーーーーー! ウーーーーー!)


ママが発動した緊急事態を知らせるサイレンが辺りに鳴り響く。


明日奈さん、莉子さんを含むキャンピングカーで暮らしている人達も、続々と校舎に避難を始めた。


そして、サイレンを聞いて直ぐに、虎太郎さん、悠里さん、佐々木さん、一条さん、守備隊の皆さんもやってきたんだ。





ーーーーー




(ズガーン!! ズガガーン!!!)


何かを物凄い力で叩く音がする。

地震でも起こったかのように地面も揺れた。


(ズ! ガシャーン!!!)


それが何度か続いた後、何かが割れるような音が辺りに響いた。

これは、まさか白蛇さんの結界が破られたという事なんだろうか?


そして校庭で警戒する僕達の前に一体の鬼の様な者と、四人の人間?、三十体ほどの変異体が姿を現した。


その鬼は角が二本生えた巨漢で、人間のうち二人は高校生の様な制服を着ており、もう一人は大きい大人、最後の一人は婦人警官みたいな格好だ。


変異体達は皆どこか歪な体型をしていて、総じてグロテスクな姿をしている。


「やっと会えたぜ! 冴賢!」


鬼が僕の名を叫ぶ。

なぜか僕の名前を知っているようだ?


人間だと思った者たちは、よく見ると一部が変異していて人間離れしている。

これは人間じゃなくて変異体なのか?


鬼は何が嬉しいのか物凄い笑顔だ。

この鬼の顔、どこかで見覚えが……まさか……でも、死んだはずじゃないか!


「まさか、お前は! 達也なのか!?」


「はっはっはー、大当たりだ! 良くもこの俺様を殺しやがったな! 地獄から舞い戻って来てやったぜ!」


あり得ない! あの時確かに殺したはずだ。


「お前は死んだはずだ!」


「ふん! 神に選ばれたのがお前だけと思うなよ? 俺や、こいつらだって選ばれたんだ。但し、邪悪な神にだがな!」


何て事だ! 死んだと思っていた達也が鬼になって復活してくるなんて!

これが特殊な変異体の正体なのか……


他の四体も……あれは、よく見ると僕が殺した体格の良かった達也の先輩だ!

そして、あれは確か行方が知れなかった明日奈さんの幼馴染、あれは僕がグループごと潰した武装グループのリーダーだった男、それに……婦人警官の米倉までいるじゃないか!


(マスター。山岳地帯を除く全方位から感染者の大群がこちらへと近づいています。進行速度から計算したここへの到達予想時間は、およそ一時間です)


「パパ、変異体がいるから守備隊を下がらせて! それと、後一時間でここに感染者の大群がやって来るみたい! サイコ部隊は、サイコ武器を展開して応戦して下さい!」


僕はパパと皆に大声で伝える。


どうやら僕達は、もうここで戦うしかないみたいだ……

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