第137話 信じる者(大谷光司)
僕の名前は
僕は普通にゲーム好きな中学生で、塾にも通わず勉強もあんまりしなかったけど、要領が良いのかテストでの点数は悪くなかったので、成績はいつも中の上ぐらいだった。
僕には二つ下の手のかかる妹がいる。
美久と言って甘えん坊の小学五年生だ。
美久は朝起こされた時にいつも二度寝してしまい、食べるのも遅いので学校に行くのもギリギリになって毎日の様にお母さんに怒られている。
テレワークで常時家にいるお父さんの方が焦って美久に外着を着せたり、ランドセルを背負わせたりするぐらいだ。
そんな平和な日々の中でパンデミックが発生したんだ。
ーーーーー
幸い、僕達の生活圏は首都圏の中でも人の少ない地域であり、パンデミックの初期被害が少なかったのと、僕の通う中学校も美久の小学校も比較的早目に集団下校となった結果、家族が離れ離れになる事は無かった。
でも家にあまり買い置きが無かったので早々に役所の避難所に入る事になった。
そして避難が長引くに連れて僕の父さんの様な一般人も、危険な外へ食べ物を探しに行く必要が出てきたんだ。
ある時、外へ行っていたお父さんが手に怪我をして帰って来た。
それでお父さんはずっと唸って苦しんでいたようなんだけど、夜になって急にお母さんに襲いかかったんだ。
お母さんは僕達に逃げて! と叫ぶ。
危機を感じた僕は泣き叫ぶ美久を引っ張って逃げ、避難所の人に助けを求めた。
やがてお父さんは他の人にも襲い掛かり、避難所も逃げまわる人達で大騒ぎになり、開けたままのドアからゾンビも入って来て避難所は崩壊してしまったんだ。
そのまま近くのビルの陰で二人で抱き合って夜を明かし、朝になって彷徨っていたところにゾンビに遭遇してしまった。
「逃げるぞ美久!」
「う、うん!」
僕達は逃げたけど、周りにいた何体かのゾンビが僕たちを追いかけてきた。
「美久! 早くっ!」
「お兄ちゃん! 待ってえっ!」
そして逃げているうちに美久がガレキに躓いて転んでしまった。
何だってこんな時に転ぶんだよ!
「くそっ!」
僕は美久に走り寄りながらゾンビに思い切り石を投げた。
石は狙い通りゾンビの顔に当たったけど構わず近付いて来る。
「うわーん、お兄ちゃん! 怖いよー!」
美久が動けず、ゾンビが近付いて来る恐怖で泣き叫ぶ。
トロ臭い奴だけど僕の大切な家族なんだ!
見殺しにするぐらいなら二人で死んで両親のもとに行こう。
「美久っ!」
僕は恐怖に泣き叫ぶ美久を上から包み込む様に抱きしめた。
美久が死ぬのは見たくない。
せめて僕が美久よりも先にやられよう……
(ドガッ!)
その時、何か地面に凄い衝撃が響いたので薄く目を開けて確認すると、そこには青白い光に包まれた背の高い男性がいて、一瞬のうちに苦も無くゾンビを全て倒してしまったんだ。
そしてその男性は僕達に話し掛けてきた。
「君たち、大丈夫?」
それが僕達と冴賢さんとの出会いだった。
ーーーーー
それから僕達はお腹いっぱいになるまで焼肉ご飯を食べさせて貰い、美久の怪我の治療までしてもらったんだ。
よく考えると、なぜ炊き立てのご飯とか焼肉セットを持っているのか不思議だったんだけど、助けてもらった時に見たあの青白い光が関係しているんだろうか?
冴賢さんは家族を探して旅をしているそうなんだけど、お願いしたらそのついでに僕達を受け入れてくれる避難所を探してもらえる事になったんだ。
移動中、美久を背負って移動している冴賢さんは全然疲れを見せない。
それにゾンビの位置が手に取るようにわかるみたいで、僕達がゾンビに不意を突かれる事は全く無かった。
そして出会うゾンビは必ずと言っていいほど一撃で倒している。
僕が考えるに頭蓋骨は結構硬いと思うんだけど……
注意して見ていると偶に一瞬だけ冴賢さんが持つバールが光ることがあった。
やはりあの青白い光が関係しているのだろうか?
僕は確信した。
冴賢さんは何かしら不思議な力を持っているけどそれを隠したいみたいだ。
それがどの様な物なのかわからないけど、一つだけ確かな事があった。
それは冴賢さんがとても優しい人だという事だ。
途中出会う悪者には容赦は無かったけど、こんな壊れた世の中で僕達を助けてくれた事もそうだし、女性や子供などの弱者は率先して助けていたからだ。
そして明日奈さんが同行者となるタイミングで、冴賢さんが自分の能力を僕達にカミングアウトしてくれた。
正直凄い能力だと思うけど、能力そのものよりも神様に選ばれたという事が驚きだ。
僕が聞いた話を総合して考えた時、冴賢さんは否定するかもしれないけれど、恐らくこの世界は神様から冴賢さんに委ねられたのではないかと思っている。
ーーーーー
僕達が冴賢さんの家族がいるこのホワイトフォートに来て半年弱、また学校に通って勉強をしたり養鶏を始めたりして、安全で生活インフラの整った環境で充実した本当に楽しい生活だった。
このホワイトフォートを日本政府の勢力に乗っ取られてしまったのは凄く悔しいけど、僕は確信に近い想いで信じている。
これからも冴賢さんが僕達を導いてくれるんだって。
それだけを信じ、僕は冴賢さんと共にこれからも歩んでゆきたいと思う。
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