第108話 闇に拾われる者

……お前はもう親友なんかじゃない!


(シュッバッ!)


……


くそう、痛え……


俺はどうなったんだ……動けねえ……

首の辺りが冷たい……


俺はイケメン金持ちのエリート樣だぞ……

欲しい物は何だって手に入れてやるんだ……


高校を卒業して、大学を出て、親父の会社に務めて。

人生はバラ色なんだ!


そうだ、真理だって俺に気があるはずなんだ。

上手く冴賢を利用して……


そうだ!


あいつめ! 


俺を、俺の首を! 


俺はあいつに!!


畜生! 畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生!


俺を、俺様を殺しやがって!

絶対に許さん! 呪ってやるぞ!


ひさと!!!



「ふははは。とうとう見つけたぞ!」 

「うむ。物凄い憎悪の念よ」

「良い種を仕込めそうである」


誰だ? 声が聞こえる。お前達は誰だ?


「我らは、お前達人間からは神と言われる存在だ」


神? 神様なんかいたのか?


「お前の中に凄まじい憎しみを感じた」

「うむ。この地に残された使徒への強い憎しみをな!」

「使徒は我らの敵も同然である」


そうだ。俺は憎い! 俺を殺したあいつが!


俺は選ばれた人間だった!

全員がおれにひれ伏すべきなんだ!


だが……くそっ!

俺にはもう首しかねえんだ……


「力が欲しいか?」


ちから?


「お前が憎む者達を屠る力だ。お前が望むのなら我が、我らが力を与えよう」


欲しい! 力が! あいつを倒せる力が!

あいつを殺せる力が!!


「ならば我らにお前の魂を捧げるか?」

「うむ。魂を捧げるか?」

「捧げるであるか?」


捧げる!

魂を捧げるぞ!

俺に力をくれるんならな!


「よろしい。ならばお前に力を授けよう!」

「うむ。この世に蔓延させたウィルスと合わせた強力な力を!」

「復讐である! この世を、この世界をさらなる地獄に変えるのだ!」





ーーーーー





そして俺は知らない場所で目覚めた。


俺は死んだんじゃなかったのか?

冴賢に首をねられて。


あれは全部、悪い夢だったのかよ?


俺は自分の身体を触ってみた。

違う! 夢じゃねえ! 凄え肉体だ!


(ドガン! ゴオッ、ドガアッ!)


その辺に放置されている車を蹴飛ばすと、遠くまで吹っ飛んで横倒しになる。

物凄い力だ!


ふっははは! いいぞ!


その音と衝撃でこの辺りのゾンビがワラワラと集まって来る。


お! お前ら何だ?

この俺樣とやる気かよ! 来やがれ!


俺はファイティングポーズを取ったが、ゾンビ共は俺を襲おうとはしなかった。

それどころか俺が指示する方向になんとなくだが着いてくる。


これは……

俺はゾンビに襲われないし、操れるのか?

こりゃあ凄えぞ! こんなの最強じゃねえか!


俺は有頂天になってゾンビ共にあれこれ指示を出してみた。

だが奴らは細かい指示は全然く理解出来ない様子だった。


全く使えねえ奴らだ。





ーーーーー





あれから二ヶ月ぐらい経った。


おれは暇潰しにゾンビ共を連れ、度々避難所を襲ったりして人間共を殺してた。

遊び半分で人を殺しても罪悪感なんか全然感じねえ。

俺が元々そうなのか、この身体になってからなのかは分からねえが。


「ひぃっ! 化け物!」

「た、助けて〜!」


うるせっ! 死ねっ!


(ザシュ! ザシュッ!)


文句垂れてても死んでゾンビになれば俺様の下僕なんだよ。

黙って死にやがれ!


しかし、冴賢の奴何処にいるんだ。

早く見つけて出して殺してやりてえぞ!





ーーーーー





それから少しして、ゾンビ共の中から稀に化け物になるやつが出てきた。

たぶん避難所を襲って人を食った時なんだろう。


筋肉が異様に膨らんだり頭や腕がどでかくなったり、やたらと素早くなったりと、色んなタイプがいたが、コイツらはなぜか俺の言う事が理解出来るようだった。

見た目は気持ち悪い奴らだが俺の言う事には従順だ。


何となくだがわかる。

たぶん俺はコイツらの王なんだ。


何かコイツらにいい名前は無いか……人を食って進化するなら、マンイーターで良いか。

※人食いの意味


俺はマンイーター共に冴賢を見つけるように指示して各地に飛ばしてみた。

それでわかったが、コイツらは俺の持つイメージを共有出来るみたいだ。


まあ見た目で見つかるなんて相当運が無いと無理だが、何もやらないよりはマシだろう。

マンイーターの数もまだ少ないしな。


そしてある時、その中の一体が戻って来ない時があった。


俺はソイツが向かった方向に行って死骸を見つけた。

首がスパッと切断されて、頭も何かで破壊されてやがる……

これはまさか冴賢がやったのか?


コイツはやたらすばしこいのに身体は相当固かったはずだ。

クソっ! やっぱり奴は強え!

それは認めるしかねえか……


俺は冴賢を今直ぐに見つけて戦うという選択肢を捨て、各地の避難所を襲って力を蓄える事にした。


もっとゾンビ共と進化したマンイーターを増やさねえと……

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