第118話 大群からの撤退(12/6)
「動くなっ!」
「荒井冴賢! 両手を上げろ!」
サーチで分かってはいたけど、十人ほどの警察官が後ろから来て拳銃を構えて警告してきた。
万が一でも銃が暴発しては困る。
僕は振り返って全員の持つ拳銃をアイテムボックスに格納した。
「何っ!」
「銃が無くなった!」
「どこに……」
「何が起こったんだ!」
「こんな事をしている場合では無いんです! 数十万規模の感染者の大群がここに近付いています。直ぐに逃げる準備をして下さい! 変異体も複数体混じっているみたいです、僕達も逃げましょう!」
僕はいきなり持っていた拳銃が無くなって戸惑う警察官達に、感染者の大群が迫っている事を警告し、最後は仲間に向けて逃げようと告げる。
「何を!」
「そんな馬鹿な!」
「おい、誰か外を確認してこい!」
警察官達もそれを聞いて慌ただしくなり、虎太郎さん達も驚いている。
「虎太郎さん、はいこれ。手加減はして下さいね。明人君、赤羽君、君達の仲間を迎えに行こう!」
「おう!」
「「は、はい!」」
僕は虎太郎さんに超能力で生成したサイコ武器を手渡した。
すると虎太郎さんは今までの鬱憤を晴らすかのように、サイコスレッジハンマーを警察官達の眼の前に振り下ろす。
「お前ら! 邪魔だ!」
(ドガアンッ!)
物凄い音がして床のコンクリートに大きな窪みと亀裂が入り、地震でも起こったかのように頑丈な建物が揺れる。
あの、手加減は……
虎太郎さんのハンマーの衝撃でひっくり返っている警察官を横目に、僕達は居住区に入っていった。
ーーーーー
「冴賢さん、僕の仲間はこれで全員です!」
一時間ほど後、明人君と赤羽君が仲間の中学生達を連れて現れた。
男子三人、女子二人の中学生の五人だ。
僕達は軽く自己紹介だけ済ませ、九人で直ぐに警察署の出口まで行く。
待っている間に、僕は警察署の偉い人と話して誤解を解いてもらった。
前回、警察官を殴り倒したのは米倉のせいで不当に拘束されそうになったからで、こちらから敵対する気はない。
直ぐにここを出るつもりだけど邪魔をするのであれば容赦しない事も伝える。
虎太郎さんが巨大なハンマーを持って横で睨みを効かせてくれたお陰なのか、直ぐに出ていくのならと分かってくれた様だった。
一応、分かってはくれたみたいだったけど、ゾンビの大群が迫っている事は確認が取れないので、動いてはくれそうになかった。
僕の様にサーチで感染者の位置や規模が分かるわけではないから、仕方がないのかも知れない……
僕は避難民にも一生懸命それを訴えたんだけど、残念な事に僕の言葉に耳を傾けてくれる人は誰もいなかったんだ。
僕が以前、ならず者のコミュニティから助けた女性達もいたんだけど、米倉に何かを吹き込まれていたのか、僕は犯罪者のような目で見られてしまっていた。
一つだけ良かったのは、その婦人警官の米倉がここには現れなかった事だ。
てっきり、また拳銃を持って僕を襲ってくるのかと思っていたんだけど、たぶんまだ前回の怪我が治っていないんだろうと思う。
もし、ここが感染者=ゾンビの大群に飲み込まれてバリケードが崩されたら、とても拳銃で倒し切れる数ではないし変異体もいたので、この避難所の人達は新たな感染者となってしまうだろう。
見捨てる様で申し訳ないけど警告は出来るだけ行なったし、僕と虎太郎さんだけで複数の変異体を含む数万〜数十万の感染者の相手をする事は出来ないんだ……
もしかしたら大群の進路が逸れる事もあるかも知れない。
僕はここの人達の無事を祈りながら避難所を後にした。
ーーーーー
「うおーっ! 凄え!」
「と、飛んでるわよ?」
「明人の言う事、本当だったんだ!」
「すっげえ〜!」
「これって安全なの?」
観光バスを宙に浮かせると、明人君の仲間の中学生五人がそれぞれ声をあげる。
「な! 本当だろ? これから行くところはホワイトフォートって言うんだけど、中に入るともっと凄いぞ。高い壁に囲まれて安全だし、卵だって肉だって毎日食べられるからな! 色んな店もあるし、美容院だってあるぞ!」
「「「「「……」」」」」
皆、びっくりして声も出ない様だ。
この後、ハンバーガーショップのセットメニューを出してあげると、半泣きで貪る様に食べる五人だった。
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