第113話 楽園を目指して2(平坂綾音)

「ぐああああっ!」


真九郎を撃とうとしていた男が悲鳴を上げて拳銃を手放す。

男の手には先程の光のせいなのか、青白い何かが突き刺さっていた。


そして天空から薄っすらと青白い光を纏う人物が、ゆっくりと地上に舞い降りる。

全員が無言で少しの間固まっていたけど、その人物が茜と真九郎を拘束していた男達を凄い力で蹴り飛ばした。


(ドンッ! ドガッ! ゴッ!)

「うぎゃっ!」

「があっ!」

「ひぎいっ!」


その人物は茜と真九郎を軽々と脇に抱え込み、滑るように移動して私達の車の近くに丁寧に降ろしてくれた。

短刀を喉に当てて自害しようとしていた母様も、車の中で絶句している。


そして今度は脚を撃たれて伏せる私の方にゆっくりと近づいてくる。

この窮地に真九郎を救ってくれた彼は一体何者なのだろう?


私には天の父様が遣わして下さった、神様の使いの様に思えた。





ーーーーー





「何だお前はっ!」


(パンパン、パンッ!)


リーダーの男が、光の人物を拳銃で撃つ。

けれど撃った弾はその人物の手前で止まり、直ぐに下に落ちてカランカランという音を立てた。


「ば、馬鹿な! 銃が効かないぞ!」

「ひいっ! ば、化け物だ!」


彼は一向に気にしない様子で怪我をして動けない私を抱え上げ、妹達の方に行く。


「くそっ、怯むな! こっちは大勢だ! 他の武器で殺れっ!」


リーダーの男が放心状態から立ち直って叫ぶ。


だけど唐突にリーダーの男のこめかみに青白い矢が貫通して突き刺さり、男はそのまま倒れてビクンビクンと痙攣して動かなくなった。


皆がまた放心していると、不意に固まっていた男達が5人ほど一度に吹き飛んだ。

その先には青白い巨大なハンマーを携えた巨漢がいる。


何処からか飛んで来る青白い矢も、一定間隔で男達に降り注いで致命傷を与えている様だ。



「もう大丈夫ですよ。片付くまでここで少し待っていて下さい」


年若い男性だった。

彼はそう優しく私達に告げると、ならず者達の中に突っ込んで行った。

私は男性からそんな安心させられる様な事を言われたのは初めてだった……

なぜか心臓の鼓動が速くなったような気がする。


そこからは圧巻の一言だった。


何処からか姿を現した女性が、手に持った長弓で次々とならず者達を貫く。

ハンマーの巨漢がそれを振り回すと、男達は嘘みたいに纏めて吹き飛んでゆく。


彼はというと手に青白く光る剣を握り、ならず者達を武器ごと両断してゆく。

ならず者達の車は、彼が時折放つ炎の玉の様な物で大破していた。

逃げようとする者は彼の頭上に浮かぶつぶての様な物で貫かれて倒れる。


これはもう強いなんて次元では無いだろう。

この騒ぎで周辺から集まってきた大量のゾンビも、ついでと言う感じで残らず殲滅されていった。





ーーーーー





「僕達は生存者の救助活動を独自で行っている者です。僕は一応リーダーの荒井冴賢と申します」


彼が名乗りを上げ、私達はそれぞれ簡単に自己紹介を行った。

その後、彼が銃撃で負った傷が痛む私と茜に治療を申し出てくれた。


彼が私達の傷口に左右の手を当てると、途端に眩い光が溢れ出した。

それが収まり、まさかと思い傷口を見てみると何処にも傷が見当たらなかった。

これは一体……私の家族も驚愕で固まっている。


「貴方がたは何処かへ移動されていたんでしょうか?」


私はしばし放心していたけど、慌てて返事を返す。


「は、はい。私達は、楽園と噂されている領域を目指して旅をしています」

「楽園、ですか?」


「はい。なんでも強固な壁に囲まれた楽園だとか。噂でしかないのかも知れませんが、藁にも縋る気持ちで……」


「隊長、それはもしかして私達の集落の事じゃないでしょうか?」

「俺もそんな気がするな」


「噂になってるんですか……なら一度、僕達の集落に向かいますか?」


「では楽園に私共を受け入れていただけるのでしょうか?」

「はい。但し、僕の事をあれこれと詮索しない事が条件です。それに最終的には僕のパパの承認が必要です。まあこれは悪い人でなけば問題ないと思います」


なるほど、これだけの力を見せられたのだ。

彼の事を詮索したい気持ちもあるけど助けてもらった恩もある。

条件がそれだけならかなり破格だろう。


どの道、私達は他に行く宛が無いし彼らが悪者だとも思えない。

私は母や妹、弟と目配せし、皆が首を縦に振っているのを確認して話す。


「承知いたしました。一切詮索はしない事をお約束します。集落へのご案内、何卒よろしくお願いいたします」


その後、さらなる不思議な力で空を飛び集落に向かった。

移動中にいただいた暖かい食事のなんと美味しかった事か。

やがて見えてきた巨大な壁に囲まれた楽園と思える場所を見て私は涙する。


ここへ来れたのも父様や、ご尽力いただいた門人の皆様方のお陰だ。

私達はこの感謝の心を忘れてはならないだろう。


助けていただいたご恩も、彼やこの集落に尽くす事で返してゆければと思う。

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