第102話 生存者の救出活動(10/16)

僕は集落の仕事をこなす傍ら、定期的に生存者の救出・援助に出掛けていた。

僕一人ではあまり多くの人を助ける事は出来ないけど、手の届く範囲の人は助けたいと思ったからだ。


もちろんパパの許可を得ているし、お付き合いしている明日奈さんや莉子さんも凄く応援してくれている。


僕にはサーチで生存者の位置がわかるので空を飛びまわって探し、生存者の家や部屋に声を掛け、救助が必要かどうかを確認して必要であれば集落へ案内し、不要という事であれば例のサバイバルセットを人数分差し上げるような活動だ。


※サバイバルセット=乾パンと各種缶詰を数個、水2リットル2本、お米2kgを入れたリュック


危なそうな人や邪悪な感じの人はなるべく対象から外すか、最初からサバイバルセットを渡すだけにしている。

これももしかしたら超能力なのかも知れないんだけど、僕には何となくだけど邪悪な感じの人がわかるみたいなんだ。


今日は少し遠出して東京方面に行ってみる事にする。


僕は一人で行動する時はもう絨毯は使わずに直接空を飛んでいた。

自分だけなら東京でも20分位で移動できるようになっている。


これは単純に念動力テレキネシスの出力が上がったのと、複数出来る対象を一つに集約するとその分速度を上げられる事がわかったからだ。

念力サイコキネシスを纏えば、上空を高速で移動する際の温度変化にも対応できる。





ーーーーー





「よいしょっと」


このアパートに生存者の反応が二つあるのを見つけて地上に降り立った。

生存者の反応は他にもあるけど、ここの小さい反応は急がないと消えてしまうそうな感じなんだ。


このアパートの周りには頭部を鈍器の様な武器で破壊され、道の脇に積まれた感染者が多い。

誰かがこの付近の感染者を倒しているのかも知れない。


僕がここに舞い降りるのを見た感染者達が複数群がってくるけど、サイコバレットで頭部を全て破壊して沈黙させ、同じ様に道の脇に積んでおく。


(コンコン!)

「誰かいますか! 救助に来ましたー!」


僕は二人がいると思われる部屋のドアを叩いて呼び掛けた。

いかにもここに居るのを知っている感じだと、以前警戒されて出て来なかった人がいたので、今はこう呼び掛ける感じにしている。


少し待つとドアに人の気配がする。

透視クレアボヤンスで目を合わせない様に確認すると、一見して若いヤンキーの様な感じで190cm以上もある大柄な人だった。

食糧事情が悪いためか頬がこけて消耗しており、手には少しひしゃげた感のある金属バットを持っている。


確認が終わったのかドアが開いて大男が出てきた。


「救助ってホントかよ? お前一人じゃねえか」


「仲間は別のところにいて、僕はこの付近の担当なんです。荒井冴賢といいます。貴方お一人ですか?」


「いや、小さい妹がいるんだ! 来てくれ!」


奥へ案内されると、小学校低学年ぐらいの女の子が横たわっていた。

衰弱して眠ってしまっている様子だった。


「この辺りじゃもう水も食べ物もあまり手に入んなくなって弱っちまったんだ! 親も多分死んじまったし、頼む……鈴花すずかを、妹を助けてくれよ!」


大男は妹を心配するあまり涙目になっている。

僕は一つ頷くと妹さんの隣に座り、リュックから各種の物資を取り出した。


鍋に水を入れカセットガスコンロでお粥のレトルトパック二つを湯煎する。

その間に妹さんの身体を少し起こして、吸い飲みに入れたスポーツドリンクを口に近付けた。


全く飲もうとしないので背中から治癒ヒーリングの力を少しだけ流し込むと、少し体調が回復して気が付いたのかスポーツドリンクを飲みだした。

この辺りの動きは莉子さんと秀彦君を助けた時の経験を活用している。


僕は大男に指示して湯煎したお粥を器に入れてもらい、それを受け取って冷ましながら妹さんの口に運んだ。

妹さんはまだ目を開けないけど、少量ずつ口内に運ぶとスプーンに食い付く様に食べてくれ、やがてその動作も力強い物に変わっていった。


「うん、もう大丈夫だと思います。貴方も食べて下さいね。お水もありますから」

「ああ、ありがとう! 恩に着るよ!」


大男も涙を流しながらお粥を食べだした。





ーーーーー





大男の名前は沢田虎太郎さわだこたろう、歳の離れた妹は鈴花すずかというらしかった。

虎太郎こたろうさんは高校三年生で、鈴花すずかちゃんは小学校一年生。

母親は鈴花すずかちゃんを産んで間もなく亡くなっているそうだ。

パンデミック当日は鈴花すずかちゃんが風邪を引いて小学校を休んでおり、虎太郎こたろうさんは学校を休んで看病していたとの事だった。


父親は勤め先に行ったままで帰って来なかったみたいだけど、兄妹がバラバラにならなかった事はラッキーだったのだろう。


「僕は北にある集落から来ました。人口はまだ500人ぐらいですけど、今のところ食料には困らず安全です。皆、何らかの仕事はしてもらっていますけど、学校があるので中学生以下は義務教育を受けてもらっています。ここに居るよりは良いと思いますけど、お二人も参加しませんか?」


「……本当にそんなところが……参加する! いや、頼む! 参加させてくれ! 腕力には自信があるんだ! 絶対に役に立ってみせる!」


「そ、そうですか。わかりました。最終的な判断は集落の代表である僕のパパが判断しますが、まだ高校生で小学生の妹さんが居るのであれば問題無いと思います」


「ああ、ありがとう! 荒井だったか、よろしく頼む!」


「はい。家族もいるので僕の事は冴賢ひさとと呼んで下さい」


「なら俺も虎太郎こたろうと呼んでくれ!」


その後虎太郎こたろうさんに移動手段がある事を伝え、出発の準備をしてもらっていた。


僕は時間を持て余していたので何気なくサーチで辺りを確認をすると、初めて見る紫色の反応が徐々にこちらの方に近付いて来ているのがわかった。


「何か来る!」


まさかこの反応は……

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