第122話 空からの訪問者(12/27〜12/28)

(バババババババババババ!)


昼過ぎに大きな音がしたので僕が自宅の窓から空を見上げると、軍用だと思われる大きなヘリが家の近くの上空を横断していくのが見えた。


「えっ! なに?」

「ヘリコプター?」


「みんな家から出ないようにして! 僕はあのヘリが降りるところに行ってみるよ! トランシーバーでパパに連絡をお願い!」


「わかったわ!」

「気を付けるのよ!」


明日奈さんと莉子さんに連絡を頼んだ僕は、家を飛び出してヘリの方に向かう。

彼らはたぶん自衛隊だろう。


以前、門まで来た隊員からの連絡か、この付近を航空機が飛んでいた事もあったので空からこの集落を見つけたのかもしれない。


僕達は自衛隊や国の保護を今更求めていない。

一体何をしに来たのか……



大きな軍用ヘリはホワイトフォート内の大きい交差点の中央に降りようとしているみたいだ。

この辺は放置された車とかも僕のアイテムボックスで片付けて綺麗にしてあるので、丁度良いと思ったんだろう。


僕は少し減速したヘリに追い着いて、ヘリが到着するのを眺めていた。





ーーーーー





「あの……」


僕がヘリから降りてきた自衛官達に声を掛けると、数人の自衛官達が自動小銃を僕に構えた。


「やめろ! 民間人の生存者だ! 引き続き周囲の安全を確保!」


上官らしき人物が僕を確認して号令する。

少しして自衛官達はひととおり安全確認を終えた様だった。

上官がヘリに戻ると、二人のスーツ姿の男女がヘリから降りてくる。


その間、一人の自衛官が僕に駆け寄って尋ねてきた。


「我々は陸上自衛隊です。あなたはここの住人ですか?」

「は、はい。そうです。ここは僕のパパが代表の集落で……」


「その民間人を連れて来い!」


僕が自衛官に答えている最中に、上官が僕を連れて来るように叫ぶ。

自衛官は僕に着いて来るように促してきたので、僕は大人しく言う通りにした。



「彼はここの住人だそうです」


自衛官が敬礼して、上官とスーツ姿の男女に報告する。

小綺麗な身なりをしている。

やっぱり日本政府関係の人間なんだろうか。


男性の方が前に出て僕に訪ねてくる。


「この街に代表者はいますか?」

「えっと、はい。僕のパパですが、もうすぐここに来ると思います」


「そうですか……では少し待ちましょう」


男女は頷き合うと、僕にパパの到着を待つと告げた。


少しして、道路に白いミニバンがやって来るのが見えた。

もしかしなくてもパパだろう。


我が家にあったミニバンはこの集落に来る途中で、感染者に体当たりとかしてボロボロになり、最後はパンクして泣く泣く破棄したらしいので、僕が同じ型のミニバンをアイテムボックスから取り出してプレゼントしたんだ。


パパは少し手前でミニバンから降りたので、僕が前に出て手招きする。

パパは小走りで自衛隊とスーツの男性達をチラ見しながら近寄って来た。


「そこで止まって下さい。我々は陸上自衛隊です」

「そうですか……あなた方は?」


スーツの男性が答える。


「私達は日本政府の者で、私は栗山茂樹くりやましげき、この女性は大河内理沙おおこうちりさといいます。航空機で周囲に高いバリケードのあるこの街を発見して、視察に来たんです」

「日本政府の視察ですか……特に必要とも思えませんが」


それを聞いたスーツの女性、大河内おおこうちさんが早口でまくし立てる。


「あたな方はそうでもこちらは違います。ここ7カ月間のパンデミックで日本の生産力はゼロ近くにまで落ち込んでいます。生存者の人口も恐らく1000万人をとうに割り込んでいる事でしょう。詳しくは言えませんが自衛隊では全てのゾンビを駆逐できる弾薬もありません。それどころか……ゴホン。とにかく、ここはどうやったのかわかりませんが高い壁で囲まれた安全地帯です。生産用の田畑もあるようですし、ここに日本政府要人とその家族を移して重要拠点の一つとしたいのです!」

「……」


パパは無言だ。

引き継ぐ様に日本政府の男性、栗山くりやまさんが話す。


「それにこの街を縦断する道路は長いので、周囲の家々を少し取り壊わして整備すれば滑走路代わりに使用でき、自衛隊の拠点にもなって一石二鳥になります。あなた方も日本国民であるのなら、日本政府および自衛隊に強力するべきではないでしょうか」

「……」


やっぱりそうか。

ここを安全だと見込んで乗っ取りに来たんだ!


一般市民は、ほとんどなんの説明もなくこの騒動に巻き込まれて死んでいった。

生き残った人々も必死に逃げ回って、やっと入れた避難所でも不安な日々を過ごし、結果として襲撃や崩壊に巻き込まれて多くの人が死んでいった。


明日奈さん、莉子さんのご両親もそうだ。

光司君や、早苗ちゃん、保護した子供たちの親だって子供を残して死ぬなんて、さぞや無念だった事だろう。


そうやって運良く生き延びて来た人々と強力して、僕たちはこのホワイトフォートを少しずつみんなで作り上げて行った。


とても僕一人では為せなかった事だ。


なのに真っ先に何処かに逃げていた日本政府の要人達をここで保護したいと……

僕は身勝手な言い分を聞いて怒りで全身の毛が逆立った。


今回やって来た自衛官の人数はおよそ20人ぐらいだ。

ヘリの中にもう何人かいたとしても30人以下だろう。


僕のサイコバレットは百以上の目標を同時に破壊できる。


充分に対応できる範囲内だ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る