第93話 莉子さんの想い(8/22〜8/23)
集落に帰ってきた僕たちはキャンピングカーを僕たちの一号車の隣に降ろした。
とりあえずパパを呼んできて軽く明人君たちの紹介だけ行って、今日はもう休んでもらう事にした。
翌朝、僕は早く起きて白蛇さんへのお祈りと各種トレーニングを行ない、みんなで朝食を摂った後は、またバリケードを作る作業に戻った。
今日は秀彦君を明日奈さんに預けた莉子さんがバリケード設置のフォローをしてくれるらしい。
何でも明日奈さんと莉子さんで一日ずつ交代で、学園での教育と僕のバリケード設置の補助を行なうのだと二人で取り決めたみたいなんだ。
今は莉子さんと二人で絨毯に乗って作りかけのバリケードまで、やっと到着したところだ。
「ねえ、冴賢くん。本当に透視能力は持って無いんでしょうね?」
「!」
僕はそんな事を聞かれると思ってなかったのでビックリして固まってしまった。
いや持ってる、持ってるけどそれは最近白蛇さんに授けられた能力なんだ!
以前聞かれた時点では本当に持っていなかったんだ。
しかし、そんな言い訳が果たして通じるんだろうか?
でも僕は嘘をつくのも苦手だし……
「えっと、信じてもらうしかないんだけど、実は最近その能力に目覚めたんだ」
「ほら! やっぱり持ってたのね!」
「本当だよ! 前に聞かれた時は発現して無かったんだ!」
やっぱり疑われるよね。
どうやって誤解を解こう……
「ふふふっ。冗談よ。明日奈ちゃんから聞いてるわ。あの後、白蛇様から頂いたんでしょ?」
「そ、そうなんだ。でも僕は無断で服を透視したりはしないからね!」
僕はからかわれていたみたいだった。
ふ〜勘弁して欲しい。
「ふふふ。分かってるわよ。でもね、私、冴賢くんには凄く感謝してるの。私と弟の秀彦を救ってくれた事……」
「えっと、あの時は結構危なかったかもね、二人とも」
「うん。正直、私はもう絶対駄目だと思ったわ。秀彦もどんどん弱っていって、怖くてひもじくて情けなくて……でも気が付くと冴賢くんが助けてくれてた。あの時の安心感……食べさせてもらったお粥の味は一生忘れないわ」
「僕も二人が無事に回復してくれて良かったよ」
確かにあと半日遅かったら危なかったかもしれないぐらい危険な状態だった。
それにか弱い女の子なんだから、とても心細かっただろう。
「私のこの命は冴賢くんから貰ったような物なの……。秀彦の命を救ってくれた恩もあるし。だから私のこれからの人生は全部あなたにあげるわ!」
「えっ! それは……」
「大丈夫! 明日奈ちゃんとも合意済みよ。二人で冴賢くんを支えていこうって」
「えっと、そうなんだ……」
しかし、それは明日奈さん公認という事なんだろうか。
これでは僕は周りから二股野郎とか言われてしまうかも。
「今でも偶に夢を見るのよ……」
「夢?」
「うん……武装グループに襲われた時の事、お父さんとお母さんが……必死に……必死に私たちを逃してくれた光景が夢で繰り返されて……それなのに、私だけ幸せに生きていて良いのかなって……」
話しているうちに莉子さんは感極まってしまったみたいで泣き出してしまった。
慰めるように莉子さんの近くに寄ると僕に抱き着いてきて号泣する。
僕は背中を優しくさすりながら莉子さんに話す。
「良いに決まってるよ! いや、ご両親は自分たちの分まで幸せに生きて欲しいって絶対に思ってる。お二人には一度会っただけだけど僕が保証するよ!」
「うん……ありがとう」
悪夢を見るのもまだ武装グループが、ご両親の仇がいるからかもしれない。
「いずれ、暴れ回っている武装グループは僕が必ず始末して来るよ。白蛇さんとの約束もあるしね。莉子さんのご両親の仇を取れば悪夢も見なくなるよ、きっとね」
「うん。でも、あんまり無茶な事はしないでね……」
僕たち二人は落ち着くまで、しばらくその態勢で青い空を見続けていた。
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