第44話 後悔する女(武田真理)

私達は途中で東堂君の中学の先輩だと言う人や、同じ学校の人達と合流し、力を合わせて感染者の脅威から逃げつつ、一週間彷徨ってある避難所で受け入れて貰える事になった。


避難所で一息つくと、私は自分が何て事をしてしまったんだろうと思い返して愕然とした。


家が隣で家族同然に育った弟の様な存在だったひー君。

私を庇って傷付いても無理してニコニコしていたひー君。

最後に私に置いて行かれて絶望した表情のひー君……


きっともうゾンビに殺されてしまっているだろう。

私はもし家に帰れた時、ひー君の家族に安否を聞かれたら何と言えば良いのか。


あれから避難所で東堂君に告白されたけど保留にさせてもらった。

ひー君があんな死に方をしてしまったのにとてもそんな気にはなれない。

あれだけ東堂君を格好良いと思っていたのはなぜなんだろう……

名前呼びだけはお願いされたので了承した。


そして罪の意識を感じる日々の中、避難所にひー君に似た人がやって来た。

いや、あれはひー君だ! 幼馴染の私には分かる。


何故か背が伸びて、ガッチリして、顔も引き締まったイケメンになっていても。

あれは幼馴染のひー君だ。

ひー君は子供を保護して連れている様だ。

そういうお人好しの様なところからも、ひー君に間違い無いと思う。


すぐにひー君に飛び付きたかったけど私達を見る目が以前とは全く違っていた。

まるで他人を見る様に興味の無さそうな目だった。

怖い……


それはそうだよね。

私達はひー君を置き去りにして見捨てた人間。

そんな人間、きっと幼馴染の縁も切られているだろう……


達也君も、ひー君が来たのでビックリしている様だった。





ーーーーー





この避難所まで一緒に来た、達也くんの中学校の時の体格が良い先輩が、ひー君を呼び出して私達と話せる機会を作ってくれる事になった。


私はこれで話をすれば分かってもらえると凄く期待して待っていた。

でも、ひー君は氷のような瞳で私達と話す事は何も無いと告げてきた……


私は仕方が無いまた個人的に謝らせてもらおうと考えたけど、先輩達はなぜか話し合いを拒絶したひー君を取り囲んだ。


私は、止めて! と叫ぼうとしたけど、その瞬間あっという間にひー君が先輩を地面に組み伏せていた。

驚く事に、ひー君は物凄く強くなっていた!


あれだけ体格の良い先輩を簡単にあしらえるなんて凄い。

良く見るとひー君の背もかなり高くなっていて、達也君よりも逞しい体つきになっている。

他の人もひー君の気迫に押され、達也君も驚愕しているみたい。


きっと私は選択を間違えたんだろう。


ひー君をずっと支え続けていれば……

私はひー君に一番近い存在だったのに、今は逆に一番遠い存在になってしまっていた。





ーーーーー





避難所の物資調達作戦が実行される日が来た。

ひー君もそれに参加するみたい。


達也君は私に、無事に帰ったら告白の返事を聞かせて欲しいと言って来た。

私は、ひー君に変な事をしないならと条件を付けた。

昨日から男子だけで何やら相談をしてる様なのだ。


皆、無事で帰って来たら私は……



ひー君に許してもらって、ひー君と一緒に行こう!

私の家族の情報も持っているかも知れないし、一緒に探しに行くのでも良い。

あの仲の良い、遠慮もいらない、まるで家族の様だった幼馴染に戻りたい!


物資調達作戦が実行されてる最中、私はひー君と一緒に来た兄妹に詳しい話を聞きに行った。


妹の方から少し嫌がられながら話を聞くと、ひー君がゾンビに襲われて危機にあった二人を助けたらしかった。

やっぱりひー君は相変わらず心根が優しい。

氷のような目をしていてもやはり私の知っている幼馴染だった。


物資調達作戦から皆が帰って来た。

ひー君も無事な様子で良かった!


でも達也君や先輩がいないみたい、どうしたんだろうか。

物資運搬班で同行した男子達に聞いて見る。


男子達は青い顔で、3人がゾンビにやられた。

自分たちも指をかじられたので切断したと言ってる。

なぜか3人とも都合よく義指を手に入れたようだ。


達也君が死んだと聞いて私は凄く複雑な気持ちだった。

これで告白の返事をしなくて済む。

酷い話だけどホッとしている自分がいた。


ひー君も達也君がいなければ、また私と仲良くしてくれるかも知れない。

私はその日は達也君たちの喪に服し、次の日の朝にひー君に会いに行った。


結果は散々な物だった。

物凄い拒絶だった。

どうあっても私は許されないみたい。


幼馴染の縁は、もうとっくに切れてしまっていたんだね。

あの別れの時に……


私はあの時の事をもの凄く後悔している。

何度も何度も、何度もくり返し後悔する。


もしあの時をやり直せるなら絶対に手を振り切ってひー君を助けに行くのに。

その後で直ぐにバッドエンドが訪れたって構わない。


家族同然だったひー君にあんな冷たい目で見られるよりは。

私はこの先もずっと、この後悔を抱えて生きてゆくしかない……

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